背後に長い歴史があります

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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　地上の全民族が祝福される　（上）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　使徒言行録３章１１‐２６節



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（１）
　　先ず、先週からの話の流れを辿りますと、エルサレム神殿の「美しの門」の傍で物乞いをしていた、生まれつき足の不自由な男が、「ナザレ人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい」とペトロに勧められ、手を取られて立ち上がると、非常に不思議で信じがたいですが、歩き出し、ペトロたちと境内に入って行った訳です。

　　この男が、その後も２人に付きまとっていると、「民衆は皆非常に驚いて、『ソロモンの回廊』と呼ばれる所にいる彼らの方へ、一斉に集まって来た」のです。興奮して集まって来たのでしょう。いつの時代、どこの国でも、群衆は物見高く、何か目新しいものがあると我も我もと群集心理でやって来ます。いや、私たちもそんな所がありますね。「ソロモンの回廊」は神殿境内東側にある有名な回廊で、イエスもそこを歩いておられた時に、ユダヤ人たちに取り囲まれて質問を受け、論争されたことがヨハネ福音書に出ています。

　　男が付きまとって中々離れてくれないという言葉には、ちょっと困ったというニュアンスがあります。ところが中々離れないことで、ペトロたちが、境内でキリストを力強く証しする場になって行きます。それだけでなく来週の所では、ペトロの逮捕に発展し、最高議会でキリストを証しすることへと大展開して行くのです。人の思いと神のご計画は違います。胡散（うさん）臭いと思っていた人が返って用いられたのです。その点、使徒と呼ばれる人であっても謙遜でなければなりません。神のみ心は何かによく耳を澄まさなければならないという事でしょう。そういう事がかすかにですが、聞こえてきます。

　　ペトロは民衆に、「なぜ驚くのですか。わたしたちがまるで自分の力や信心によって、この人を歩かせたかのように、なぜ、わたしたちを見つめるのですか」と語り、「あなたがたの見て知っているこの人を、イエスの名が強くしました。それは、その名を信じる信仰によるものです。イエスによる信仰が、あなたがた一同の前でこの人を完全にいやしたのです」と述べたのです。

　　ペトロははっきりと語っていますが、私たちがこの人を癒したのではありません。どうして驚くのですか。私たちにそんな力はありません。ただイエスの名がこの人を強くしたのです。イエスの名を信じる信仰が、この人を皆さんの前で完全に癒したのです。私たちの信仰や能力で起こったなどとは、とんでもない。私たちは神に要求を突き付け、神を動かしたのでなく、神がイエスに栄光を与えて、彼を癒されたのですと語ったのです。

　　キリスト教徒というのは本来、唯一の神を指し示す人間です。自分を誇ったり、自分を指し示すのを好みません。もしそうされたら、いや、私ではありませんキリストがこれをなさったのですと、謙虚になるのが真のキリスト者です。むろん過剰な謙虚や、取って付けた謙虚はおかしい訳で、普通のありのままの謙虚さです。謙遜を誤解してはいけません。それは消極的態度でもありません。ペトロはそのことを示してくれています。唯一の神を知るから自由なのです。喜ばしく生きうるのです。

　　さて、ペトロは次に新しい展開をしています。「アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神、わたしたちの先祖の神は、その僕イエスに栄光をお与えになりました。ところが、あなたがたはこのイエスを引き渡し、ピラトが釈放しようと決めていたのに、その面前でこの方を拒みました。聖なる正しい方を拒んで、人殺しの男を赦すように要求したのです。あなたがたは、命への導き手である方を殺してしまいましたが、神はこの方を死者の中から復活させてくださいました。わたしたちは、このことの証人です」と語りました。

　　彼が先ず言わんとするのは、私たちの神はアブラハムに現れ、イサクに現れ、ヤコブに現れた神である。即ち神は人類の歴史の中に現れ、働かれる方ですという事です。歴史の中で働かれる方が、イエスに栄光を授けて復活させられたのです。イエスは何の予告もなく、ある時パッと突然現れたのではありません。ところがあなた方はその神に背き、イエスを「十字架に付けよ」と、ピラトが釈放を決めているのに、強引に迫って決定を覆（くつがえ）し、人殺しのバラバを釈放させ、この聖なる方を拒み、永遠の命に導く「命の君」を殺しました。あなた方は何ということをしたのでしょう。あなた方は神に逆らい、反逆したのです。しかし今申しましたように、歴史の中で働かれる神は、イエスを死者の中から復活させ、義とされたのです。あなた方は拒否しましたが、神は彼を義と認められ、メシア、キリスト、救い主、神のみ心に叶う子として宣告されたのです。

　　この人が癒されたのも、今の瞬間の偶然の出来事ではありません。これは長い、長い、歴史の中で働いて準備して来られた神の御業の一つです。この背景がなければ起こりません。歴史の中で働いて来られた方が、イエスに栄光を表わされたから起こったのです。

　　くどくど申しましたが、要するにイエスの名がこの人を強くし、回復させたのです。私たちはその証人です。これは、「その名を信じる信仰によるものです。イエスによる信仰が、あなたがた一同の前でこの人を完全にいやしたのです」と語ったのです。

　　　　　　　　　（つづく）


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１９年２月２４日



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　板橋大山教会　　上垣勝




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