時代は漂流中ですが


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                                                  勇気ある女性 (4)
                                                  ルカ1章26-38節




                                 (4)
  短歌を詠む人で金夏日(キム・ハイル)という92才の方がいます。一般に余り知られていないようですが在日韓国人の素晴らしい方です。

  ハイルさんは韓国で生まれ、日本の占領下、父親を追って13才で来日しました。戦争の少し前です。ところが日本でハンセン病になり多摩全生園(ぜんしょうえん)に入りました。戦後病状が悪化し、草津にあるハンセン病の国立療養所に入所し、やがてアララギ派に入って短歌を作ってもう70年です。日本人以上に日本古来の短歌の魂を持っています。

  ご紹介したいのは、ハイルさんは草津の療養所に入って間もなく失明します。そこで始めたのが舌読でした。舌読とは、舌で文字を読む方法です。無論、普通の墨字でなく、点字を舌で読み取る舌読を習い始めたのです。

  というのは、ハンセン病のために、指がマヒして感覚を失い点字が読めなくなりました。「指紋押す指の無ければ外国人登録証にわが指紋なし。」そのことを群馬県盲人会会長に訴えると、「指がダメなら唇で、唇がダメなら舌先で点字を読む練習をしたらどうか」と励まされたというのです。励ますというのは、こういうことです。「そんなの私には無理です。酷すぎます。酷い人です。」そうではないのです。愛による励ましの真の意味を知って、自分と闘って生きたいと思います。

  ハイルさんは血の滲む努力をして舌読を習得しました。こう語ります。「じっとやっていると肩は凝るし、目は真っ赤に充血するし、涙はポロポロ出る、唾液は出る、すぐに紙がベタベタになってしまい、…そのうちに、…穴が開くんだね。それでもこうやっていると、濡れてヌラヌラして来る。いつものように、唾だろうと思ってまだやっていると、晴眼者が来て、『わあ、おい、血が出ているぞ』と言われてね。…」点字大根おろし器みたいにボツボツが出ているのを舌で触るわけで、酷いものです。

  こうしてハイルさんは舌読を習得します。習得すると次は何と、ハングルの点字を習い始めた。若くして来日したので、日本人同様ハングルを知らない。でも舌先でハングル点字を習った。「点訳のわが朝鮮の民族史今日も舌先のほてるまで読みぬ。」そしてこれが申し上げたいことだったのですが、彼は信仰を持つようになり、念願の韓国語の聖書が読めるようになるのです。皆さん、聖書を読んでおられますか。ハイルさんと違って血を流すような舌読でなく、目で追えばいい訳でいたって簡単です。意志さえ持てば誰でも出来ます。

  「お言葉通り、この身になりますように。」日本でハンセン病になり、指の感覚を失い、失明し、短歌を始め、舌読を習得し、ハングルの点字も習い、聖書が読めるようになる。そして更に短歌を究める。「お言葉通り、この身になるように」とは、それぞれの人で意味は違いますし、違っていいのですが、このような重み、痛さ、深さを持つ言葉であることを覚えたいと思います。マリアのこの言葉を安っぽい言葉にしてしまっては、神を侮ることになりかねません。

  2018年、時代はどこかへ漂流中です。どこに行くか誰も知りません。ただ私たちが乗り込む船の、ぬくぬくした環境の中で、一生を安泰に送ることだけが人生なのかと思います。安穏に暮らしてそれだけでいいのか、です。イエスは馬小屋で生まれられたのです。低い者と共に生き、最後は私たちに代わって十字架に掛かられました。

  富を目指し、自分だけが豊かになりさえすればいい。一体これでいいのでしょうか。多くの貧しい人がいるのに、勝者は増々富み栄えて、弱者の自己責任だとうそぶきます。けもの社会のようにますます弱肉強食社会になって来ました。勝者は自分が何をしているか分かっているのでしょうか。

  勝者は貧しい人の分をもっと負担し、もっと公の貢献をすべきです。貧しい人と豊かな人は連帯して生きる所に人間社会の豊かな意味が生まれます。富む者はそれを護ろうといろいろ工夫し、警察力で、秘密保護法で、やがては軍事力で守ろうとするでしょう。日本の軍事費の背後に護身の保守化があります。

  キリストを知った者たちは、やはり主の言葉を聞いて、「お言葉通り、この身になりますように。」こういう生き方をしなくていいのか。このクリスマスは、このような問いが天から舞い降りて来たような気がしてなりません。



        (完)

                                                     2018年12月23日



                                              板橋大山教会  上垣勝





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