躓（つまづ）きは目覚めの時
シェークスピア・グローブ劇場の売店で。意味はおぼろげにしか分かりません。 右端クリックで拡大
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仕える者になろう （中）
ヨハネ１２章２０‐２６節
（３）
イエスは２人からその事を聞くと、「人の子が栄光を受ける時が来た」とおっしゃいました。この「栄光を受ける時」とは十字架につけられる時、死の時を指します。ご自分の死を栄光の時と言われたのです。今や時満ちたことを知られたのです。
すでに１２章１節以下で、ベタニア村で香油を注がれた時に、イエスは、「私の葬り」の用意をしてくれたと言われました。また１２節以下で、ロバの子に乗ってエルサレムに入城された訳で、今、受難の「時」を迎えておられたことがこの事実からも分かります。
「この時」という言葉は、２７節でも、「わたしはまさにこの時のために来たのだ。父よ、御名の栄光を現してください」と言っておられますし、１３章１節でも、「イエスは、この世から父のもとへ移るご自分の時が来たことを悟り、世にいる弟子たちを愛して、この上なく愛し抜かれた」とあります。
イエスは、ご自分の死が目前に迫ったこの時に、「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」と語られたのです。ですからこの言葉はご自分の死との関係で語られたのです。
「地に落ちる」とは、地の中に入る、入り込むというニュアンスです。麦の種は、地に落ちていわば自分に死ねば、そこから新しい芽が出て、やがて多くの実を結ぶだろう。だが死ななければ、たった一粒のままである。種の生育の事実を語って、先ず、ご自分の死の意味を語られたのです。むろん弟子たちや私たちへの言葉でもありますが、先ずはイエスご自身の事です。イエスは「一粒の麦として地に落ちて死ぬ」ことによって、先ず私たちに仕えられるのです。
２５節の「自分の命を愛する者は、それを失うが、この世で自分の命を憎む人は、それを保って永遠の命に至る。」これはイエスご自身の事よりも、私たちの事です。
この「愛する」は、フィレオ―という言葉が使われています。これはエロスというやはり愛を表わす言葉までは行きません。本来のエロスという言葉は日本語の意味よりもっと広い意味で、所有愛、所有欲です。知識もエロスの分野です。日本語では、その一部である性的な所有欲だけが強調されています。
いずれにせよ、フィレオ―はエロスまでは行きません。しかし、神の愛を表わすアガペーではありません。まだまだ自己愛の領域、自己を目的とするエロスの愛と紙一重の愛です。
そして「この世で自分の命を憎む人は、それを保って永遠の命に至る」とも言われます。「命」とあるのは、プシケーという言葉です。ギリシャ人はプシケーを愛し、それを求めました。霊魂不滅、不老、不死を求めたのです。自分の命、霊魂、プシケーが失われないようにという事です。彼らにとって「永遠の命」とは、キリスト教と違って、死後も無限に続く時間、自我の永続性の事です。
ところがイエスは、「自分の命を憎む者は、永遠の命に至る。」だが、「死ねば、多くの実を結ぶ」と語られたのです。ギリシャ人たちはこの時、傍にいたかどうか分かりませんが、もし居ればショックだったでしょう。この言葉に躓いたでしょう。
一旦、自分の命プシケーを捨て、自分のプシケーを否定する時に、多くの実を結ぶ。永遠の命に至ると言われたからです。
「躓きました」、「躓きを与えられた」などと聞く場合があります。しかし、キリスト教は常に真理に対する躓きを与えます。キリスト教は本当の躓きを与えて、飛躍させるのです。躓きから飛躍してイエスを信じない限り、信仰の真髄に中々達しません。本当のことへの躓き。そこで目覚めなければならない。あなたが愛されているから、次の飛躍のために躓きが与えられたのです。これが大切なのです。躓きは目覚めの時です。
（つづく）
２０１８年８月１２日
板橋大山教会 上垣勝
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