新酒ワインの力
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新酒のワインの力 （上）
ルカ５章３７－３９節
（序）
今年の夏季集会は「主の祈り」を学ぼうと言う事です。どれだけ「主の祈り」の深みに触れることができるか楽しみにしています。昔、信濃町教会の福田正俊という先生が、「主の祈り」について、「主の祈りの言葉は極めて単純である。しかし内容に至っては汲み尽くせないほど深い、無尽蔵と言ってよいほど深い。そこに埋蔵される宝石の数々を見いだすためにはたゆみない発掘作業が必要なことはいうまでもない」と語っておられました。
私たちは無尽蔵の宝石の数々の前にいる訳で、夏季集会でこの数々の宝石を少しでも掘り起こし、イエスが教えて下さった「主の祈り」の熱い精神に少しでも触れることが出来たら嬉しく思います。
（１）
さて今日は、先週とは別の視点から「主の祈り」に光を当てるつもりで、ルカ５章の「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れねばならない」というイエスのみ言葉を選びました。
皆さんの中に自家製のワインを作ったことのある方がいらっしゃれば、イエスがここで言われたことはすぐお分かりになります。ワインはブドウを潰してそこにワイン酵母を入れて作りますが、酵母を入れてしばらくするとブクブクと炭酸ガスの泡が湧き立つように発生します。こうして何日もかけて糖分をアルコールに変えて、やがて数週間後、馥郁と薫る、香り高い新酒のワインができます。この新種のワインで名高いのが、フランスのボージョレ・ヌーボーというワインです。
作りたての新酒のワインは若々しく、まだまだ湧き立つようにガスが発生しますので、もし古い革袋に貯蔵して固く栓をすれば、皮袋はパンパンに膨らんで、やがて爆発する危険性があります。ですから、新酒のワインは必ず新しい革袋に入れなければなりません。それが鉄則です。古いものに入れれば、皮袋が張り裂け、皮袋もワインも両方ともダメになります。
３７、３８節の皮袋は、原文では複数形で書かれています。これは実際のワイン作りを知る人の言葉です。向こうでは大量にブドウ酒を作りますから、大昔なら何袋もの複数の皮袋に入れて貯蔵します。古い皮袋に新しいワインを貯蔵して、皆、張り裂ければ被害は甚大でしょう。そんな損な事をする愚か者はいないと言うのです。
ところで、新しいぶどう酒とある「新しい」と新しい革袋の「新しい」は、日本語では同じですが、元のギリシャ語は全く別の言葉です。ブドウ酒の方はネオスという言葉で、若い新酒のぶどう酒を指します。しかし革袋の方はわざわざカイノスという言葉が使われています。カイノスは、単なる新しさでなく、決定的な新しさ、今まで経験したことがない質的な新しさを指す言葉です。
新しい新酒のワインを入れるには、従来のものと違う質的に新しいカイノスの革袋、これまでに経験したことがないような画期的に新しい入れ物に入れなければならないと言っているのです。
むろんそんな特別な皮袋がある筈がありません。イエスは今、新しい新酒のワインの譬えで、イエスがもたらされた神の国の福音について語られたのです。イエスは、「時は満ちた。神の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ」と言って宣教を始められました。それは、地上に画期的な新しい生き方を作り出すものです。悔い改めてとは、後悔せよと言うのでなく、イエスを知らなかった時の従来の生き方の方向転換を促す言葉です。「地の塩」、「世の光」としての新しい生き方です。
ガリラヤの４人の漁師たちが網を捨ててイエスに従い、徴税人マタイもイエスの招きに応じて後ろを振り返らず従ったのです。旧来の古い生き方や考え方、特にユダヤ教的な因習に囚われた在り方では、今生まれたばかりの活き活きと湧き立つ神の福音を入れることは出来ないこと。古い従来の考え方や生き方を固守して、自分の生き方は何も変えないで、そこに神の福音を盛ろうとしても、それは古い革袋のように引き裂かれてしまって、折角の神の福音も従来の生き方も両方ともダメになってしまうと言うのです。
イエスが、新しいぶどう酒は質的に新しいカイノスの革袋に入れねばならないとおっしゃったのはそういう事です。
（つづく）
２０１８年７月１５日
板橋大山教会 上垣勝
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