善人は悩まなければならない
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主の祈り （５）
マタイ６章９－１３節
（４）
「我らを試みに会わせず、悪より救い出したまえ。」
試みには、試練と誘惑の２つの意味があります。むろん試練は悪いものだけでなく、私たちを鍛える教育的側面がありますから、ヤコブ書もそれを説いています。ただ試練は、神との間で平和を得ている時には、試練は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むと言う教育的意味もありますが、それがないと焦りますし、調子が狂い勝ちです。善い試練は別として、自分をダメにする悪い試練に会わせられない事を祈るのは当然です。自分から酷い試練を求めるのは傲慢でしょう。
それに対し、誘惑は、人間的な弱さや欲望、罪によってそれに引き込まれます。安易な道を選んだり、自分を慰めて自分から誘惑にはまったり、自分の甘えがそうさせたりします。
私はＮＡ（覚醒剤など薬物依存から抜けたいと願っているグループ）の人たちと１０年程接して思うのは、もし私が１０代か２０代で、薬物に手を出していれば、今頃は決して抜け出せないでもがいているだろうと言う事です。ＮＡに集まる人の中には、利発で、何人も優れた人がいます。人並み以上の能力を持つ人たちです。そんな人でも、一度これにはまると、なかなか抜け出せません。
ですから、「我らを誘惑に会わせず、悪より救い出したまえ」という祈りは、自分の弱さを知る故の真剣な祈りなのです。パウロはコリント前書１５章で、「だから、愛する兄弟たちよ。堅く立って動かされず、いつも全力を注いで主のわざに励みなさい。主にあっては、あなたがたの労苦がむだになることはないと、あなたがたは知っているからである」と書きました。堅く立って動かされず、全力を注いで生き、誘惑に会わせられない。これは人生が祝福されるための条件です。
と言っても、人は皆、迷いの中にあります。右に行くべきか、左に行くべきかで迷います。Ｊ．バニヤンは「天路歴程」で、「迷わぬ者に救いなし」と語り、「善人は悩まなければならない」と言っています。それが凡人の私たちです。迷っても気落ちしてはなりません。落ち込んでいるとサタンの手が伸びて来ます。
誘惑よ、来いと言うのは勇み足です。しかし誘惑にはまってしまった時、それに気づくや、面子を捨てて、直ちに悔い改めて出直したいと思います。決して遅くはありません。
最後に、「悪より救い出したまえ。」悪は試練や誘惑以上の本格的なサタンの業です。この祈りは、サタンの危険から引きずり出して下さいとの祈りです。悪より救い出し、主の僕として留まる事ができるようにと祈るのです。肉の弱さを思い、世の誘惑の強さを知るからです。
サタンは私たちの欲と衝動を挑発して罪へと誘います。また、サタンは神の前に人を訴え、中傷する存在です。サタンは私たちが災難や逆境に陥っているのを見て、追い詰め、足をすくう存在です。私たちの活動に打撃を与えるためです。その本格的な危険から救い出し給え。これも、自分の弱さを知るゆえに祈るのです。イエスは強い方ですが、ゲッセマネの園で血のような汗を流して、神にこう祈られたのです。
「国と力と栄えとは、限りなく汝のものなればなり。アーメン。」
これは過去、現在、将来において「限りなく」働き、時をすべて支配される神への賛美です。この言葉はマタイにもルカにもありません。しかし讃美で始まった「主の祈り」が、讃美で終わるのは相応しいことです。私たちの人生も、神への讃美で始まり、神への讃美と人への感謝で終わるなら何と幸せでしょう。一日の最初と最後も、そのように始めそのように終わりたいものです。
「アーメン。」以上の祈りは、真実です。岩のように確かですという思いで、アーメンを唱えます。神の救いに信頼を置いて、「主の祈り」を祈りたいと思います。
（完）
２０１８年７月８日
板橋大山教会 上垣勝
ホームページは、 http://www.geocities.jp/itabashioyama_ch/
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