自分の益でなく


          ローレンス・アルマ=タデマ。アシュモレアン博物館。       右端クリックで拡大
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                                         自分の益でなく
                                         Ⅰコリント10章19-11章1節



                              (序)
  今日は第Ⅰコリント10章から学びますが、ここでは偶像礼拝の事が取り上げられています。パウロがこの大都市に開拓伝道して教会を作りましたが、そこを去った後、偶像問題や男女関係の乱れなどを聞き、この手紙を送ったのです。周りの環境が教会の中に影響を与えていたのです。

  コリントには今も巨大な神殿廃墟があり、偶像礼拝が盛んで町を挙げて偶像礼拝が為されていた形跡があります。神殿の偶像に毎日大量に捧げられた肉は、、神殿内では食べ切れないので市場に卸す仕組みになっていました。アフロディテを祀る神殿ではいかがわしいことが行われていましたが、神殿は肉の利益でも莫大な富を得て、あの巨大な神殿を建てたのです。いかに大量の肉が捧げられたか想像できます。

  ところがキリスト教信仰に入った人たちは、偶像に供えられた肉を食べていいのか。食べれば偶像に魅入られ、虜(とりこ)になり、偶像の支配下に戻りはすまいかという不安があったのです。日本人は比較的にこの心情が分かります。神社やお寺に供えられた饅頭など、キリスト者は食べるにしても何かスッキリしない思いで食べるでしょう。毛嫌いする人もいるかも知れません。

  こういう背景の中でこの手紙は書かれています。

                              (1)
  今日の個所に、「自分の利益ではなく」とか「自分の益ではなく」という言葉が、2度ほどありました。パウロは教会というもの、キリストにある者の基本的な姿勢をそう考えたのです。これが今日のキーワードと言っていいと思います。

  さて23節に、「『すべてのことが許されている。』しかし、すべてのことが益になるわけではない。『すべてのことが許されている。』しかし、すべてのことがわたしたちを造り上げるわけではない」と彼は書きました。このカッコの中の言葉はパウロの論敵が語っていた言葉です。彼らは、ヨハネ福音書8章の、「わたしの言葉にとどまるならば、あなたたちは本当にわたしの弟子である。あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする」というイエスの言葉を拠り所にこう語っていたと思われます。

  自分らはイエスを信じ、イエスに堅く留まっている。イエスの弟子だ。だからイエスの真理によって、既に全ての事柄から開放され、自由であり、許されていると主張したのでしょう。

  しかしパウロは、君たちの言っているのは確かにそうだ。自分もそう思う。だが、全ての事が他人の益になる訳ではないと語るのです。「造り上げるわけではない」という言葉は、何を造り上げるのか漠然としています。前の訳は「人の徳を高める訳でない」と訳し、別の日本語訳は「自他の徳を高める訳ではない」と訳しています。パウロはここで、あなた方が何を語るのも、何をするのも許されているだろうが、それが必ずしも自他の徳を高める訳ではない。人を向上させ、励まし、強くし、役立つことになるとは限らないと語っているのです。

  コリント前書8章、10章は、先程触れたように、偶像に供えられた肉を食べていいのか、悪いのか。当時、偶像礼拝の盛んなコリントでキリスト教徒の間で喫緊(きっきん)の問題になっていた事です。

  偶像に供えられた肉を食べる者は偶像によって汚される。その支配下におかれ呪縛される。逃げれば偶像に祟られると、誤った恐怖感を抱く人たちが居たのです。長年偶像の許で生活していた彼らにしてみれば、そのトラウマから解放される事は中々難しかったのでしょう。

  それに対しパウロは、キリストは全てから私たちを解放し、自由にされた。「誰でもキリストにある者は真理を知る。真理は自由を得させる」という事は本当である。偶像に供えた肉を食べることも、食べないことも許される。食べても食べなくても、それで益になる訳ではない。各自の判断でそれをすればいい。ただ、全ての事が自他の徳を高める訳ではないと主張するのです。キリストの体なる教会を造り上げることにならないと語ったのです。

  自他の徳とは、他人の徳を高めること、その事が自分の徳を高めることにつながり、それはキリストの徳を高め、神の徳を、神の栄光を現わす事になるという意味です。互いに関係しているのです。

       (つづく)

                                         2018年6月17日


                                         板橋大山教会  上垣勝



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