不安が作りだすもの


                  R. Martineau アシュモレアン博物館で         右端クリックで拡大
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                                          多数で一つ (上)
                                          Ⅰコリント10章14-16節



                              (1)
  今日の14節以下は先ず、「わたしの愛する人たち、こういうわけですから…」と語ります。

  私たちはお愛想で「愛する人たち」などと言う場合があるかも知れませんが、彼はお愛想で語るのではありません。親愛の情を込めて、穏やかに呼び掛けるのです。パウロはコリント教会を作りそのメンバーをよく知っています。彼は知的であると共に愛の人です。まごころを込めて語っているのです。

  以前は、パウロは厳しく語っていると私は思いましたが、誤解です。彼は相手を15節で、彼らの事を「分別ある者」と語りますし、彼らの自主性を尊び、自分で判断するように勧めています。「~しなさい」と命令口調に取れますが、原文は命令的というより、穏やかに愛を込めて語っているのです。たとえ厳しくあってもそれは愛抜きの厳しさでなく愛に根差した厳しさです。

  「偶像礼拝を避けなさい」と率直に語りますが、これも彼の愛のしからしめる所です。自分が伝道したコリントの信徒たちが再び偶像礼拝に戻らないように、心を痛めて、キッパリ分かれるようにと語るのです。

  「偶像礼拝を避けなさい。」そんな事をして何もよいものはないからです。コリントには偶像が無数にありました。日本では八百万の神と言いますが、ギリシャの神々も非常に多く、人間を始め森羅万象が神になる多神教です。「見知らぬ神」という神さえアテネにあったとパウロは言います。それらの基本的な姿は、多産、五穀豊穣、繁栄の神であり、家内安全、国家鎮護の神、また日本にあるかどうか知りませんが、ビーナスのような愛の神、というよりエロスの神、日本にはもっとどぎついのがあります。そして運命や戦争の神です。

  しかし、偶像は人間の願望や欲望から出た期待像ですからとうてい神と言えません。長いですがイザヤ書44章9節以下をご覧下さい。
  「偶像を形づくる者は皆、無力で、彼らが慕うものも役に立たない。彼ら自身が証人だ。…無力な神を造り、役に立たない偶像を鋳る者はすべて 、その仲間と共に恥を受ける。職人も皆、人間にすぎず…。
  鉄工は金槌と炭火を使って仕事をする。槌でたたいて形を造り、強い腕を振るって働くが、飢えれば力も減り、水を飲まなければ疲れる。
  木工は寸法を計り、石筆で図を描き、のみで削り、コンパスで図を描き、人の形に似せ、人間の美しさに似せて作り、神殿に置く。彼は林の中で力を尽くし、樅を切り、柏や樫の木を選び、また、樅の木を植え、雨が育てるのを待つ。
  木は薪になるもの。人はその一部を取って体を温め、一部を燃やしてパンを焼き、その木で神を造ってそれにひれ伏し、木像に仕立ててそれを拝むのか。
  また、木材の半分を燃やして火にし、肉を食べようとしてその半分の上であぶり、食べ飽きて身が温まると、『ああ、温かい、炎が見える』などと言う。
  残りの木で神を、自分のための偶像を造り、ひれ伏して拝み、祈って言う。『お救いください、あなたはわたしの神』と。
   彼らは悟ることもなく、理解することもない。目はふさがれていて見えず、心もふさがれていて、目覚めることはない…。」
  預言者イザヤはユーモラスに偶像の赤裸々な姿を語っています。

  イスラエルでも偶像が作られました。モーセシナイ山から中々帰ってこない。しびれを切らした民衆は、モーセに代わって我らを導いてくれる神を作ってくれと、アロンに要求したのです。身に付けていた金(きん)を出し合い、雄牛の像を造って神としたのです。見える神を作ったのです。偶像と言うのは不安が作りだすものです。自分たちの願望。不安を埋めてくれるものをそれに反映しているのです。イスラエルでもギリシャでも日本でも万国ほぼ共通です。ところが何故かそれが繁盛します。巣鴨の「とげぬき観音」を見てもそうです。4の付く日は凄いです。毎日、門前市をなしています。

        (つづく)

                                         2018年6月10日



                                         板橋大山教会  上垣勝



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