山が動きました


                      庭にジャスミンが薫り出しました        右端クリックで拡大
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                           前夜式(A・B子さん)


                                           1942年4月24日生
                                           2018年4月4日召天

                                           ルカ17章6節
                                           2018年4月7日(土)午後6時
                                           於 板橋大山教会



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  私は、A・B子さんは奇跡の人だと思っています。A・B子さんが奇跡を起こされたのでなく、神がB子さんを通して奇跡を起こされたと思うからで、先ほどお読みした聖書でイエスが、「もし、からし種一粒ほどの信仰があれば、この山に向かって、『ここから、あそこに移れ』と命じても、そのとおりになる。あなた方に出来ないことは何もない」と言われたように、山が動いたのです。

  B子さんは1942年4月24日、栃木県X町にお生れになり、この4月4日夜に主の許に召されました。戦争のさなか、女5人、男3人のご兄弟の4番目としてお生れになりました。ご兄弟は皆仲良く、今もお元気でいらっしゃるとお聞きしています。

  私たちの目に触れたB子さんは優しく明るい方でした。子ども時代は活発で、ご実家の裏の川で溺れかけたそうです。中高生になると更に活発になって、ダンスが得意になり、宝塚に入る希望をもっておられたそうです。また男女共学の高校で中々モテタようです。

  6才上のAさんと出会い、1963年に23才で結婚されました。20代のご主人は数え切れないほど一杯見合してから、決めたいと思っておられたようですが、Bさんとの見合いで一目惚れ、何と3回で決定したという、超特急とまではいかなくてもかなり高速でAさんと決められたようです。理由は、優しそうな娘さんで、純情そう。スタイルもいいし、顔も良かったと。平日礼拝でもお聞きしていました。宝塚を夢見るほどの女性です。Aさんの心を捕えたのも、さもありなんです。

  5年前に金婚式を迎えられました。B子さんはこれまで一度も他の人と喧嘩したことがなかったそうで、ここには誰も焼きもちを焼く人はないと思いますが、外面の器量と共に心の器量がとてもいい方でした。

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  赤ちゃんは両親の和(なご)やかな語らい、2人の心の響き合いの中で育てられます。いい音色がする家庭で育つか、そうでない家庭で育つかで、子どもは大きな影響を受けます。B子さんの心に心地よい、よく響き合う、ご両親の心の揺りかごで揺られて育たれました。

  B子さんを知るには、ご両親を知る必要があると思います。お母さんのU・トミさんは98才で亡くなりましたが、平らかな人だったそうです。平らかという素晴らしい言葉は、B子さんから生まれて始めて聞きました。平らかな人とは、デコボコがなく、平坦で、トミさんは誰にでもえこひいきせず、骨身を惜しまない方だったのです。

  トミさんの生れは、お父さん、B子さんのお爺さんですが、大酒飲みで家が貧しくなり、トミさんはあちこちの家に奉公に出されたのです。それも小さい時からです。それで小学1年生で学校をやめさせられて、あちこちで子守りをしていたのです。まるでイエスの母マリアのようなお育ちです。小学低学年で、世間のことなど分かる筈がありませんが、小さくして辛酸をなめたのです。泣いて帰ることもあったそうです。

  苦労に苦労を重ねられたのですが、人によっては、そんな状況で心がねじける事があるでしょうが、トミさんは幸いねじけなかったのです。悲しむ人は幸いであるとありますが、神様はよい魂をお授け下さったのでしょう、むしろご自分の経験を通して、どんな人に対しても公平であろうと心に堅く決めて行くのです。

  やがて、父の兄さん、ご本家ですが、子どもがなく、そこの養女になりました。経済的に恵まれてひと安心、喜びは大きかったでしょう。ところが、そこにおいて再び苦労が待っていました。奉公時代以上のつらい辛い、精神的に過酷な日々だったというのです。子どもながら家出をしようと心に決めたことも何度かあったようです。だがその困難な地に踏み留まったのです。よく踏ん張り通されました。

  そして養子を取って結婚されました。それがB子さんの父、U・幸重(こうじゅう)さんです。結婚すると幸重さんは、仕事から疲れて帰ってもトミさんに読み書きを教えられました。当時の田舎では珍しく大学を出ていました。その頃、夜遅くまでU家に灯がともっているのを見た村人がいたでしょう。不思議に思った人もあったかも知れませが、家の中では、若い新婚夫婦が電球の下で字を教え合っている仲睦ましい姿があったのです。映画のワンシーンを見るような気がします。

  世の辛酸を幼い頃からなめた女性ですが、ここにやっと平和な、明るい、愛の薫る、幸福な家庭を築き、色々、人の世話を公平にする平らかな女性となって行かれたようです。「艱難、汝を珠(たま)にす」とは、トミさんの為にある言葉だったかも知れません。穏やかに光る真珠のような平らかな光沢を放って行かれたのでしょう。

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  宝塚を夢見ていたB子さんに戻ると、やがて23才で6才上のAさんと結婚されますが、その前、高校生の時、B子さんはお父さんの妹である、叔母さんに誘われて氏家教会に行きます。そこで初めて本当の神様に出会ったように思われました。それがキリスト教との出会いで、その後礼拝が楽しみになり、そこの幼稚園を手伝い、20才の時に洗礼を受けられました。つい先週まで、大山教会の礼拝も毎週楽しみにしていらっしゃり、10年前からご家庭を開放して家庭集会、平日礼拝を開くようになり、常時7、8人が集って楽しい会をして来ました。

  ただ、そこまで行くには何年も、いや何十年もかかりました。というのは、AさんはA家のご長男です。舅、姑さんとの同居です。事情により、教会生活が不可能に近い状態になったこともありました。

  40年前に、B子さんはこう書いておられます。「キリスト教が全く理解されない家の長男の所に嫁いでいる立場上、主人の理解は得られていても、未だに日曜礼拝に出掛けるという事すらが大変なことになっている。私自身の未熟な信仰生活ゆえと反省するのみであるが、親の理解を頂くには、日常生活に中での行ないを通して長い年月をかけて行こうと思っている。」大山教会の20年史にお書きの引き締まった文章です。

  こうもお書きです。「親との同居は困難ばかりではないが、多少の自由が束縛され、マイナスになる面もある。だが良いにつけ悪いにつけ、色々な経験をさせて頂ける。神に与えられた人生の尊い試練の場と、有り難く思えるようになった。神はこの場において、神が望む所の隣人愛を教え込んで下さっているような気がする。細々ながらの私であるが、それを守り育て、続けることにより、どのような事に遇っても、正しい心の目で物事を見ることが出来る信者になりたい。また、いつの日かは主人と共に教会に行けるよう願っている。」

  信仰において覚悟を決めて、困難をも尊い試練の場と有り難く思っていると、35才の若夫人のB子さんは書いておられたのです。B子さんも信仰によって、置かれた場にしっかり踏みとどまられたのです。よく踏ん張られた。ここにトミさんの平らかな人を受け継ぎながら、それをキリスト教的な隣人愛という更に広く大きなものへと越えて行かれた姿があります。素晴らしい心意気です。乳癌になって全摘もされました。人の悲しみに心から寄り添う方、素晴らしい共感能力を持っておられました。民生委員でも素晴らしい務めをされました。そして40年前の一番大きな願いは、ご主人と教会に行くこととありました。

  それが、10年前に平日礼拝となって具体的になり、やがて4年前に、ご主人がここで洗礼の恵みに浴する事になられたのです。1日、2日の祈り、数か月かの祈りではございません。40年間の祈りです。山が動いたのです。大きな山が動いた。キリストが、B子さんの祈りを聞き上げて山を動かして下さったのです。これを奇跡と言わずに何と言えばいいでしょう。京子さんは本質的に悪に染まない清潔な方でした。謙遜なキリストの良い証人でした。

  神は彼女を通して奇跡を起こされましたが、聖書はもっと大いなる奇跡が起こることを約束しています。それは永遠の命です。死者の中からの甦りです。復活です。神と顔と顔を合わせてあい見る日が来ることです。聖書が語るように、キリストにおいて、既に救いは天で確立しているのです。B子さんは天に凱旋されたのです。

  (完)

 * 8日(日)礼拝後、12時30分から持たれた、葬儀告別式での説教は省略。




                                         板橋大山教会  上垣勝



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