君に惚れなおした


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                                         極上のワインが出る (3)
                                         ヨハネ2章1-11節


                                (2)
  「召使」という言葉は、僕や奴隷という言葉でなく、ディアコノスというギリシャ語です。食卓で奉仕する人、奉仕者を指します。やがて教会の奉仕者、世話役、執事を指すようになります。今では教会役員もそうです。奏楽の奉仕やその日の礼拝当番もこの種の奉仕者と言っていいでしょう。

  ところでこの家の玄関に、大きな石の水甕(みずがめ)が6つ置いてありました。清めの水甕です。ユダヤ人は清めを大事にする民族ですが、外から帰ると必ず手と足を洗いました。現代のような衛生の観点からでなく、宗教的な意味の清めです。水甕は巨大で約120リットルが入る。それが6個。120リットルと言えば大型のリンゴの段ボール箱より一回り大きいものです。

  イエスは、「水がめに水をいっぱい入れなさい」と言われた。一杯とは、ゲミサテという言葉で、トップまで、縁までという意味です。すると、召使いたちは忠実に、6つの甕(かめ)の縁まで水を満々と満たしたのです。

  彼らは、少し離れた村の井戸に急いで汲みに行ったでしょう。せいぜい一人が運べるのは、容器の重さが2キロほどありますから、水は5リットル程でしょう。例えば6人の召使が汲みに行ったとしたら、1人24回往復した筈です。片道100mとして往復で200mだとすれば、200mの24倍は、4,8キロメートル。往きは2キロの容器だけですが、帰りは7キロの重さです。1、2回はいいですが、24往復するのは気が遠くなります。召使が6人もいたでしょうか。4人なら更に大変です。祝宴の最中で急を要し、大変な作業です。彼らは力を振り絞り、懸命に努力し、汗をかきつつ、フウフウ言いながら急ぎ足で黙々と運んだでしょう。フウフウ言いながら会社でサービス残業している人たちの姿もチラつきます。

  作業の最中、幾ら忠実な召使であっても心に疑問が湧いたでしょう。一体こんな事をして何になるのだ。ワインが必要なのに、水を汲まされるなんて。何の足しになるんだ、無意味じゃないか、無謀じゃないか、無茶じゃないか。心に疑問が湧きながらも、それを打ち消しつつ、言われた通りに黙々と水を汲み続けたのです。

  教会の伝道もそんな事があります。懸命に伝道したのに無駄であった。一生懸命に奉仕して、教会が盛り上がっていたのに急にゴソッと少なくなる。超高齢化の波は教会も襲っています。骨折り損のくたびれ儲け。ワインが必要なのに水を汲んでいたのでないか。的外れのことしかして来なかったのでないか。そういう疑いです。

  しかし召使たちは油汗を流しながら、歯を食いしばり、心に起る疑問を打ち消しながら、イエスの言葉に忠実に働き、6つの「かめの縁まで水を満たした」のです。

  するとイエスは、「さあ、それをくんで宴会の世話役のところへ持って行きなさい」と言われたので、グラスに汲んで運んで行った。世話役が受け取り、ワインに変わった水の味見をした。一口含んで、彼は目を輝かせて大急ぎで花婿を呼んだのです。「だれでも初めに良いぶどう酒を出し、酔いがまわったころに劣ったものを出すものですが、あなたは良いぶどう酒を今まで取って置かれました。」

  世話役が口に含むと、何とそれは、これまで口にしたこともない、まろやかで風味があり、芳醇な、香り高い、深みのある、高級なワインだったからです。今ならボトル1万円、いや、数万はする極上のワインです。120リットルの6倍ですから、ゆうに1千万円、いや、2、3千万円はするでしょう。

  だから花婿に、「君は何という粋な奴だ。最後に最高級のワインを出すなんて。あっ晴れだ。気前のいい、洗練された、見事な心遣い。俺は君に惚れなおした」と言って褒めそやしたのです。「良いブドウ酒」という言葉にはそんな意味があります。


      (つづく)


                                         2018年3月4日




                                         板橋大山教会  上垣勝



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