私という飼葉桶


                  グラスミアのワーズワースのコテッジの庭にて      右端クリックで拡大
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                                           馬小屋の赤ん坊 (下)
                                           ルカ2章1-7節
 


     (前回から続く)

  目が見えず、耳が聞こえず、話せない。ヘレン・ケラーは1才半で突然発熱して3重苦になりました。これ程辛いことはありません。だが彼女がいなければ、今のように盲人福祉が世界で進むことはなかったでしょう。彼女の信仰は広く、キリスト教の枠に留まらず宗教の枠を越え、盲人、いや、盲人の枠も超え、色々な障害者を救い、障碍者と共に生きる道を切り拓く先駆者になりました。

  箴言に、「私の子よ」という呼び掛けが沢山出ています。またイザヤ書に、「あなたは私の目に価高く、貴く、私はあなたを愛する」という言葉があります。またヘブライ書に、「主は愛する者を鍛え、子として受け入れる者を皆、鞭打たれる」とありますが、本当の神の愛を知って、視力障害者をはじめ、様々な障碍者福祉のパイオニアになって行った方です。どうして3重苦の人がそんなことが出来たのでしょう。

  彼女はその3重苦の中、驚くべきことに自分の手で自伝を書いています。そして他の所で自分の自叙伝について述べています。「私の自叙伝は決して偉大な作品ではない。もしもその中に何かの価値があるとすれば、私が作者として優れているからでなく、また、その中に心躍らせるような出来事があるからでなく、神が私を子として扱い、私を懲らしめ、その光を消すことによって、聾者盲者の人々を助けんとされた所にあります。神は私を、もの言えない者のための口とならしめ、私の盲目を他人の目とならしめ、不具にして(昔の訳ですから、こんな不適切な訳語が使われています)力弱き者のために手となり、足とならせて下さったのであります。しかも自分一人ではできなかったため、誰か他の人が私を解放して下さった。」それがサリバン先生だと書いておられます。

  神は私を「子として扱って下さった」というのです。子として甘やかすのでなく、子だから鞭打ち、鍛えて下さった。私たちはこの言葉を、自分の身において深く味わうべきです。鍛錬と鞭、それは私を聾唖者のための口とし、盲人のための目となし、障碍者のための手足とするためであった。恩寵は無限です。試練や試みは必ずある。だが、神はそれらを超えて、神を愛する者と共に働いて、万事を益に変えて下さるのです。

  今日の聖書は私たちに何を告げるのでしょう。私たち一人一人の所に、幼な子キリストが来ておられると告げています。どこか自分の立派な所や自慢できる所でなく、私たちの飼葉桶、私たちの悩める所、悲しみのある所、暗部、そっと隠したい所、そういう私の足元にキリストが来て慰めを与えて下さるのです。

  教会に一度でも来られた方は、キリストがその人の飼葉桶、悩む所に来て下さったのです。その方の中に来られたキリストがやがて大きく育ち、その人の上に神の栄光が現われるためです。これまではパッとしなくても、人生の後半に、キリストを迎え入れる時には、神の栄光が現われ、人生に意味が、輝きが生まれるようになるでしょう。

  ヘレン・ケラーを教育し、40年間、この1人の魂を育てるために身を粉にして働いたサリバンさんは、まさにそういう人でした。控え目な人でしたが、ヘレン・ケラーが育つために、自ら肥(こや)しになって行かれたのです。

  キリストは、最初は飼葉桶に寝かされ、最後は十字架に吊るされました。その一生は受難の連続でした。しかしそのまことの光と愛は全世界にあまねく、国境を越え、言語を越え、人種を越え、時代を越えて、草の根に生きる人々まで届く光となりました。

  クリスマスは何と喜びに満ちあふれた時でしょう。恐れることはないのです。キリストの救いの光は、飼葉桶の中から、今も世界に、私たちの所に照っているのです。


       (完)

                                         2017年12月17日



                                         板橋大山教会  上垣勝



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