愛には勇気が必要


                         半世紀後の再訪の図書館とか
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                                           探せ、見つかる (下)
                                           マタイ7章7-12節

                               (3)
  さて最後に、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である」とありました。

  これは、イエスが説かれた最高の生き方、最高の倫理だと言われます。しかもいかなる国、いかなる時代においても是認される最高の教え、ゴールデン・ルールだと言われます。何故かというと、これまでこんな倫理を説いた人物は、ギリシャの哲学者の中にも、ユダヤ教の中にも、仏教や儒教や他の諸宗教の中にもいないからです。イエス後の人でイエスから学んだり、それを孫引きしたり、そのまた孫孫引きや拝借して説いた人はいたかも知れませんが、これが語られる所では、いかなる国民、民族の中でも最高の生き方になるのです。

  自分がして欲しくない事を、「人にするな」とか、自分が憎むことを「誰にもしてはならない」という教えはありました。「誰にも迷惑をかけちゃあなりませんよ」といった類いの教えです。だがイエスのように積極的に、「人にせよ」という形で説かれたものはイエス以前にないのです。

  「これこそ律法と預言者である」とは、律法と預言者旧約聖書全巻の事を指しますが、それらの中にもここまでの教えはありません。にも拘らず、旧約聖書が目指し、指し示す事は、この点に尽きるという意味です。律法と預言者が指し示す、指の先をずっと延ばして行くと、そこに「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」という教えが現われるのです。

  これは、ギブ・アンド・テイクではありません。そう取れば誤解です。して貰おうとして、しなさいではない。人にして欲しいことを、率先して人にするのです。愛です。返って来るか否かに拘わらず、して貰いたい事をするのです。

  いつか、ラッシュ時に三田線に乗っていました。どの駅だったか、降りようとする数人の人が奥に取り残されて、人々が乗って来て降りれなくなりました。ラッシュ時には時々ある光景です。

  その人たちは中々前に進めないので慌てましたが、誰も沈黙したまま黙っているのです。私は咄嗟に、「降りる人がいます」と大声で怒鳴りました。するとやっと入り口を開け始めて、ドアが閉まる直前にやっと降りました。降りざまに「ありがとうございます」という声がしました。誰もが分かっているのですが見て見ぬ振りです。意地悪をしているのではありませんが、自然に任せてそしらぬ顔。誰も声を立てようとしない。

  「しない」という教えはあります。しかし「せよ」と積極的に手を出すことを教えないのです。「する」という事は、もしかすると誰かから恨まれるかも知れない。反対されるかも知れません。「する」という事で、自分に迷惑や損害が降りかかるかも知れません。

  迷惑がかかるから、善きサマリア人の譬えに登場する祭司とレビ人は、向こう側を通って行ったのではないでしょうか。強盗に襲われた人が倒れているのを知っているから、関わらないように向こう側を通ったのです。

  しかし善きサマリア人は、自分に迷惑が降りかかっても、「人にして貰いたいと思う事は何でも、人にした」のです。彼は、「宿屋の主人に、この人に最善の事をして上げて下さい。費用が余分に掛れば、帰りに支払います」と言ったのです。

  犠牲を払ってでも私は致しますというこの愛は、キリストに愛された人でなければ出て来ません。これはキリストに出会って初めて生まれる新しい生き方、愛の態度です。自然に湧いたものでなく、キリスト譲(ゆず)りの愛だけがこれをするのです。

  ある人がこんな事を書いていました。自動車を運転する人は誰でも人に怪我させないように運転する。自分がして欲しくない事を人にしない。これは当たり前だ。これは自然に生まれる。だが、自動車を運転していて、道路で誰かが足を痛めて倒れているのを見たので、自動車を留め、その人を乗せて急いで病院に運ぶ。これはしなくていいものかもしれないが、するのは自発性です。犠牲を払ってでも人々に親切にすること。ここに愛があります。これが人の美しい姿です。そのために勇気が必要であり、犠牲を払う覚悟、手間を取らせられる覚悟、意志が必要であり、愛だけがこれをするのです。

  イエスが「求めよ」と語って、祈りについて語られた後、すぐ愛について語られた所に、祈りと愛はキリスト教において切っても切り離せない関係にあることを示唆しています。

      (完)

                                         2017年4月2日


                                         板橋大山教会 上垣 勝




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