目にある丸太


                             オーランジュで
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                                           目の中にある丸太 (中)
                                           マタイ7章1-6節



                               (2)
  次にイエスは、「あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか」とおっしゃいました。

  1、2節では「あなた方」とあったのに、3節からは急に、「あなたは」と2人称単数で語られます。イエスは聞き手の一人一人に一段と迫って語ろうとされたからでしょう。「おがくず」とあることから、イエスの大工経験が窺えます。「丸太」、これは本来柱と柱をつなぐ横材、梁のことです。いずれにせよ、丸太や梁の譬えにも大工の経験が滲み出ています。

  大工時代に、目におが屑が入ったことが何度かあったのでしょう。しかし、どんな人も目に丸太が入る事はないでしょう。イエスはユーモアを持って話されたのです。「人の目の小さなおが屑は見えるが、自分の目の丸太に気づかない。人に向かって、『あなたの目のおが屑を取らせてください』とどうして言えるだろう。自分の目に丸太があるじゃあないか。」初めてこれを聞いた弟子たちや群衆は、この耳の痛い譬えに思わず吹き出したでしょう。誰しも身に覚えがあったからです。イエスは後世に残る傑作な譬えで話されたのです。

  なぜ裁きが起こるのでしょう。人の細かい欠点はよく見えるのに、自分の欠点はどうして見えないのでしょう。しかも人と比較にならないくらい自分の欠点が多かったり、大きくても、それに気づかない。気づこうとしない。自分の欠点は長く付き合い馴れているからでしょうか。甘いからでしょうか。それとも山が余り近くにあるので、見えないのでしょうか。人の欠点は自分と違うから気になるのでしょうか。そもそも、裁き心がある事自体が問題なのでしょうか。

  次の5節に至って、イエス様は、「偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる」と鋭く迫られました。 裁きの本質はここにあるでしょう。

  「偽善者」とは、ギリシャ語でヒュポクリテスと申します。フランスでイエス時代の巨大な野外劇場を見学したことがありますが、ヒュポクリテスは本来ギリシャの仮面劇の主演俳優のことです。当時の演劇は仮面をつけて演じました。舞台では悲劇や喜劇の主人公として振舞っているが、俳優本人は全く違った性格だったり色々問題を抱えたりしても、それをよいことに評判を取ろうと舞台の外でも主人公の振りをする。こうして内面の事を、外面や形の事にすり替えて誤魔化す人をヒュポクラテス、偽善者と呼ぶようになったのです。

  今日の個所で言いますと、自分にはやましいことなどない、自分は問題など持っていないと仮面をかぶって見せかけるのです。私は別に特定の政治家とその嫁さんを持ち出そうと思いませんが、自分の正しさを言い繕って、開き直ってむしろ他に責任を転嫁して裁く。それを偽善者と呼ばれたのです。

  男は言いました。「あなたが私と共にいるようにして下さった女が、木から取って与えたので、食べました。」女に責任があり、神にも責任の一端がありますと言いたげで、自分を棚に上げています。すると女は、「蛇がだましたので、食べました」と蛇に責任転嫁するのです。彼女も自分を棚に上げている。

  確かに私たちは、自分の破れや問題点を何かで隠しながら、誰かに責任転嫁いたします。偽善です。イエスは今日の個所で原罪を指摘されたと言っていいでしょう。その罪から誰も言い逃れる事は出来ません。

  イエスは、「まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。」とおっしゃったのです。先ずという、この優先順序が大事だと言われます。先ず自ら神の前で身を正しなさい。そうすればあなたの行動にもっと説得力が出て来ると言われるのです。

  ここにも弟子たちへのイエスの愛が見え隠れします。彼らが、宣教に遣わされてこの世に出掛ける時、思わぬ事で足をすくわれることがあるかも知れません。でも、すくわれても立ち直れるように。多くの人が足をすくおうと待ち構えていても、恐れることなく使命を果たすことが出来るようになるためです。

  粘り強さが大事です。だがそれ以上に大事なのは自ら先ず身を正していることです。すると多少の事ではグラグラしません。そんなことでは神の使命を果たすことはできません。こう言う意味でも今の国会は反面教師が何人も登場する場です。

      (つづく)



                                         2017年3月19日



                                         板橋大山教会 上垣 勝




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