葛藤の中で


                         リヨン美術館で(25)         右端クリックで拡大
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                                                    共におられる神 (中)
                                                    マタイ1章18‐25節


                              (3)
  さて、イエスの母マリアは大工ヨセフと婚約していたが、まだ一緒になる前に聖霊によって身ごもっているのが判明したとあります。聖霊とは言え、実にけしからぬことが起こったのです。婚約者のヨセフは、マリアからそれを聞き、どうしても信じられず、悔しかったでしょう。

  マリアも当然最初は信じられなかった。ルカ福音書では、「どうしてそんなことがあり得ましょう。私はまだ男の人を知りませんのに」と抗議しました。だがやがて、「私は主のはしためです。お言葉通り、この身になりますように」と受けていますが、ヨセフはマリアから話しを聞いても信じられず、葛藤の中で人間不信、神不信に陥ったでしょう。皆さんならどうですか。私なら信じられません。

  19節は、「夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した」と記しています。

  彼は正しい人物で、正直で真直ぐな人でした。だから結婚前に性交渉もないのにマリアが妊娠したと聞いて、もはやこれ迄だ、縁を切ろうと決意した。当然です。

  ただ、正しい人である彼は誠実な人でもあり、マリアへの愛情も思い遣りも持っていたので、事件が表ざたになってマリアが窮地に立たないように最善を尽くしたのです。彼は冷たい人物でなく、人情味ある温かい男でした。縁を切れば、マリアは姦淫罪で石打ちの刑を受けなくても済むからです。

  それで彼は心の中で葛藤を持ちつつ離縁を固く決意した。英語の聖書は過去完了形で訳しています。決意は過去に完了していたのです。

  ところが20節、「このように考えていると、主の天使が夢に現れて言った。『ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。』」

  マリアに現われたのと同じ主の使いが、突然、夢に現われたのです。 ギリシャ語原文には突然という言葉が入っています。どうして日本語で省いたのか分かりませんが、これは神の一方的な恵みを示す重要な言葉です。

  御使いが突然現われて、「ダビデの子ヨセフ、恐れるな」と語りました。これには、世間の目を恐れるなという意味と、神からの使いである私を恐れるなという意味があります。しかし大事なのは、「ダビデの子ヨセフ」という呼び方です。この呼び掛けには、ダビデ以来の、この家系に綿々と続いて来た救いようのない、何重も積み重なった罪の歴史が含まれます。この重苦しい歴史を背負って生きる「ダビデの子孫であるヨセフ」に、「恐れるな。マリアを妻として迎えなさい」と言われた。もし誰かの子を宿したふしだらな女性を家系に加えるなら、その系図に更に罪を加えて一層悲しい呪われた血筋ということになる。だが、そんなことは何も恐れず、マリアを迎えなさいと言われた。

  彼は耳を疑ったでしょう。そしてマリアに語ったようにヨセフにも、神の使いは、「胎の子は聖霊によって宿ったのである」と語り、「マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである」 と言ったのです。「聖霊によって宿った」とは、罪に満ちた人の力によらず、聖なる方の聖なる力によって宿ったという意味です。

  不倫とも言えるマリアを恐れず迎えよとは、何と無謀かつ大胆な勧めでしょう。神が全責任を取るということです。それにしても、葛藤の中でやがて恐れずマリアを妻として迎えたヨセフは何と勇気ある大胆な男でしょう。

  この間、彼は一言も言葉を発していません。しかし彼の心は、マリア同様、「お言葉通り、この身になりますように」と心の内で語ったでしょう。彼は言葉の人ではありません。寡黙です。だが寡黙ながら、不言実行の決断の人であったのです。不言実行。これは勇気や大胆さと共に人間として非常に大切なものです。


        (つづく)

                                            2016年12月18日



                                            板橋大山教会 上垣 勝




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