復活のもどかしさ


                          リヨン美術館で(13)        右端クリックで拡大
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                                                 キリストと焼き魚 (2)
                                                 ルカ24章36―43節


                              (2)
  その時、そこにイエスが入って来て真ん中に立たれたのです。そして、「あなたがたに平和があるように」と言われた。イエスに罪を覆われた人々には「平和」が生まれます。喜び、希望、新しい力が湧き出ます。「あなたがたに平和があるように」という主の言葉は、それを象徴するような出来事です。

  しかし集まった人の大半は、イエスの復活を耳にしただけで、まだ復活のイエスに実際に出会っていませんでした。だが現実に復活のイエスに出会うという事がいかに恐ろしく感じられるか。肝を潰さんばかりの現実であったか。彼らは「恐れ戦(おのの)き」、「うろたえ」たのです。彼らは「亡霊を見ている」のだとすら思ったとあります。

  亡霊とあるのは、元のギリシャ語では亡霊でなく、単に霊、息、風、幻などと訳せる言葉です。復活のイエスが風や息のように、捉えどころがなく透けて見えたのでしょうか。亡霊の姿が恐ろしかったというのでなく、死んだ方が甦って目の前に立っている訳で、それ自体が薄気味悪く、譬えようもない恐れがあったのでしょう。

  するとイエスは、「なぜ、うろたえているのか。どうして心に疑いを起こすのか」と言われ、彼らの動揺を鎮めるために、さあ、「わたしの手や足を見なさい。まさしくわたしだ。触ってよく見なさい。亡霊には肉も骨もないが、あなたがたに見えるとおり、わたしにはそれがある」と語られたのです。

  イエスは数日前にできた手足の太い釘跡をお見せになった。復活すればどうでしょうか。普通なら未だ痛みは癒えぬ傷です。だが少しもご自分の痛みには触れず、もっぱら彼らに「平和」を語られた。そして、「亡霊には肉も骨もないが、あなたがたに見えるとおり、わたしにはそれがある」と言われたのです。

  これは、私の存在は夢や幻や思い込みでなく、幽霊でもないという意味です。復活のイエスには肉や骨というリアリティがある。実在がある。世を越えて存在する現実があるという事です。キリスト教は人間の理想や熱に浮かされたものでなく、歴史的事実として、死に直面し打ち勝って甦った方に根差すものです。そういう確かさからキリスト教は出ていると言いたいのでしょう。

  ところが彼らはまだ信じられないのです。喜ぶのですが、信じられない。怪訝(けげん)な面持で、声も立てずにおずおずと近づいて見つめているだけで、信じ切れない。

  そこで今度は、「ここに何か食べ物があるか」と言われ、焼魚を一切れ差し出すと、イエスは、彼らの目の前でムシャムシャ食べられた。

  これはまた実に信じ難い事です。椎名麟三という作家は、ここにイエスのユーモアがあるとあちこちで語っています。しかしそれらを何回読んでもよく分かりません。彼は信仰が持つユーモアを何とか伝えようとしているのは分かりますが、それがユーモアなのかどうか、もどかしい文章で私は納得できません。復活のイエスの存在は、理解し難いもどかしい存在だと言いたいのでしょうか。彼もよく分かっていなかったのでないかと思います。

  ところで、弟子たちは先程まで、自分らの愚かさや弱さ、可笑しな罪の姿を隠さず吐き出して、終いには笑ったり、泣いたりしながら語り合っていたのです。そして今、復活のイエスが彼らの目の前で何でもないかのように焼魚をムシャムシャ一切れ食べられたのです。

  弟子たちはあっけに取られ、目を見張ったでしょう。復活のキリストの体は、焼魚をも食べうる体である。霊の体であるが、心や精神や物体の世界を越え、それらを包み込んでおられる。死を越える究極のお方は、究極以前のものから自由であり、焼魚をも自由に摂取されるのです。

           (つづく)
                                            2016年11月20日



                                            板橋大山教会 上垣 勝




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