国民の夢は消えた……？
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暗澹（あんたん）たる２人 （３）
ルカ２４章１３―２８節
（３）
彼らは、「婦人たちは朝早く墓へ行き、…天使たちが、『イエスは生きておられる』と告げたと言うのです。それで、仲間の者が墓へ行って見ましたが、…あの方は見当たらなかった」と言いました。
彼らが言いたいのは、私たちは何が何だか分かりません。実にバカバカしい話を聞かされました。それで仲間の間でも混乱が起こり、嫌気が差して、弟子たちの群れから身を引いて古里に帰ろうとしているのです。
もう少し足せば、私たちには生前に出会ったイエスで十分です。あの勇気、何をも恐れない大胆さ、人間を越えたその真実な愛、預言者のような鋭い見方と行動。その行いと言葉は、いつまでも尊敬できます。あの教えは今後も大事に心にしまって置きたい。だが女たちの告げた、まやかしみたいなものを信じるというのは我慢がなりません。そんな事で分裂するのは嫌です。あの方は亡くなったのです。過去の人です。今も生きているなどという幻想を抱いて暮らすのは、まっぴらです。国民全体の夢は消えたのです。望みは断たれたのです。それであの集団から離れて故郷に帰って行く所です。
彼らの暗澹の理由はここにあります。これを言葉化し、自覚することなしには、彼らの信仰は一歩も前に進みません。だからイエスは彼らに、「ポイア？どんな事？」と問われたのです。
イエスは話をトコトン聞かれて、最後に言われました。「ああ、物分かりが悪く、心が鈍く預言者たちの言ったことすべてを信じられない者たち、メシアはこういう苦しみを受けて、栄光に入るはずだったのではないか。」そして、モーセとすべての預言者から始めて、聖書全体にわたり、御自分について書かれていることを説明された。
イエスは彼らのメシア理解が間違っていると言われました。イスラエルを政治的に解放して下さる王的メシアでなく、「苦しみを受けて」救いの道を切り拓いて行かれる苦難のメシアです。イスラエルだけでなく、全世界の人々の福音となるメシア、全人類の救い主です（４７節）。この観点から聖書全巻に渡って説かれたのです。
私は、ここでもイエスは微笑んで語っておられると思います。イエスの弟子であるのに今も分からない。その姿に呆れて笑っておられるのです。クレオパたちだけでなく、今も生きて働いておられるキリストを信じられない私たち信仰者の姿も見通して、怒っているのでなく微笑んでおられるのです。見えぬ方を信じるのですから、当然微笑みが漏れます。
私たちは狭い自分の世界に閉じこもるのでなく、キリストがご覧になる大きな世界でものを見る必要があります。むろん私たちの生活の範囲は限られていますし、教会も教会内だけを見ている限りこれだけの狭い世界です。だが教会はキリストの体です。天地万物を創造された父なる神、世界を包むのがキリストの体です。だから、そのような大きな視点で世界を見なければなりません。世界を包む大きな視野を与えられている教会こそ素晴らしい所です。
久し振りにフランスのテゼの話を致します。この村には世界中から若者が年間１０数万人がやって来ます。夏には常時数千人の若者たちが滞在しています。一日３度の礼拝を中心にして、午後には気候変動の問題、食糧や人口問題、格差社会の問題、国内紛争や難民問題、宗教間の問題など、多岐にわたる話し合いや、各国での経験を分かち合います。話しだけでなく、テゼ共同体のブラザーたち自身がその小さな村にイスラム難民さえ受け入れています。
去年受け入れられた１０人程の青年の一人は、今、日本が盛んに自衛隊の駆け付け支援をしようと画策しているスーダンのダルフールから来たアーメド君という難民です……
（つづく）
２０１６年１１月６日
板橋大山教会 上垣 勝
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