一番肝心なものをやり過ごしました


                           リヨン美術館(5)          右端クリックで拡大
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                                                暗澹(あんたん)たる2人 (2)
                                                ルカ24章13―28節


                              (2)
  するとクレオパたちはムキになって長々としゃべり始めました。まるで演説です。「ナザレのイエスのことです。この方は、神と民全体の前で、行いにも言葉にも力のある預言者でした。それなのに、わたしたちの祭司長たちや議員たちは、死刑にするため引き渡して、十字架につけてしまったのです。わたしたちは、あの方こそイスラエルを解放してくださると望みをかけていました。しかも、そのことがあってから、もう今日で三日目になります。ところが、仲間の婦人たちがわたしたちを驚かせました。婦人たちは朝早く墓へ行きましたが、遺体を見つけずに戻って来ました。そして、天使たちが現れ、『イエスは生きておられる』と告げたと言うのです。仲間の者が何人か墓へ行ってみたのですが、婦人たちが言ったとおりで、あの方は見当たりませんでした。」心に溜まっていたことを言葉にして、ドッと話したのです。

  イエスはじっと聞いておられました。彼らが何を悩み、どんなふうに考え、十字架と復活をどう理解しているかと耳傾けておられたのです。それは彼ら自身が自分の言葉で語ることによって、自分が抱いている問題と自覚的に直面するためです。そして暗澹たる姿、その状況がどうして起こってしまったのかに思い至るためです。一言で言えば、イエスが私たちと一緒に歩いて下さっているのに、目が遮られて分からぬために悟れず、暗澹とした思いに囚われている事があることです。命の中心になるものを悟れない間は、誰もが暗澹となってしまうという事です。

  繰り返しますと、2人はこう言いました。「この方は、神と民全体の前で、行いにも言葉にも力のある預言者でした。…あの方こそイスラエルを解放してくださると望みをかけていました。…そのことがあってから、もう今日で三日目。ところが、仲間の婦人たちが驚かせました。彼らは朝早く墓へ行きましたが、遺体を見つけずに戻って来ました。天使たちが現れ、『イエスは生きておられる』と告げたと言うのです。」

  彼らはムキになってイエスについて、目の前にいる人がイエスだと知らないで、当のイエスに滔々と語りました。そしてそれは何も間違っていない事でした。だが、幾ら客観的な正しいイエスについての認識を持っていても、過去の認識では役に立たないのです。常に新しくイエスとの実際の出会いが必要です。むしろ過去の考えに縛られていると、今、違った姿で現れられる復活のイエスに出会えない事があるということです。先入観に妨げられ、一番な肝心なものをやり過ごすのです。

  話は飛びますが、創世記にカインとアベルの話が出て来ます。カインもアベルも献げものを献げました。しかし神はアベルの献げものに目を留め、カインのものに目を留められなかったのです。そこで彼は怒って顔を伏せました。そのことがあって、やがて彼はアベルを野原に誘い出して殺します。人類最初の兄弟殺しと言われる事件です。

  この事について、約1500年前のアウグスチヌスは、神がカインの献げものを顧みられなかったのは、「彼が献げものをしながらも、彼自身、自分のためにもっと良いものを取っておいたからだ」と言います。彼は神の意志に従うのでなく、自分の意志を追求していたということです。正しい心で献げるのでなく、神の意に添わない歪んだ心で生きているのです。献げものをするのは、自分に神の心を引き付けるためであり、言わば神を買収し、自分の欲望を満足させ癒すためです。アウグスチヌスは、「善人は神を享受するためにこの世を用いるが、悪人は逆に、この世を享受するために神を利用する」と述べています。

  要するに神のための自分でなく、自分のための神です。神を召使いのように考えている。神に関係するのは良いことですが、その仕方、出発点が間違っているのです。必要なのは主客の逆転です。自分が主人でなく、神が主人です。クレオパたちはれっきとした弟子ですが、彼らに欠けているのはこの一点だったのです。

  でも悔やむ事はありません。イエスの直弟子でもこんな失敗をするのです。そしてそれを正されて一人前の弟子になって行ったのですから、私たちは早々と自分に諦めてはなりません。


         (つづく)

                                            2016年11月6日



                                            板橋大山教会 上垣 勝




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