底の浅い人じゃあない


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                                                暗澹(あんたん)たる2人 (1)
                                                ルカ24章13―28節


                              (1)
  今日はエマオ途上の2人、イエスがエマオ途上で出会われた、前途に「暗澹たる思いを抱く2人」の弟子に焦点を当ててお話をしてみたいと思います。時は、イエスの復活された日のことです。

  「2人の弟子が、エルサレムから60スタディオン離れたエマオという村へ向かって歩きながら、この一切の出来事について話し合っていた」とあります。既に彼らは、墓から戻った婦人たちから驚くべき、信じ難い、復活の話を聞いていました。だが使徒たちも、「たわ言のように思われたので婦人たちを信じなかった」のです。復活を信じるものと信じない者の間で亀裂が起こっていた。

  そんな弟子たちの間の亀裂や、あり得ないたわ言が話されるのに彼らは嫌気が差したのでしょう。エルサレムを引き払い、郷里に戻ろうと10数キロ離れたエマオに向かっていたのです。指導者を失い、失意の中、そして分裂が起こりそうな中、この何日間かに起こった一切の事を、夢中になって話し合いながら歩いていたのです。

  イースターの季節です。丁度若草が萌え出る明るい春です。野には小鳥らが飛び交って嬉々として囀り、空高くで歌うものもあったでしょう。自然はのどかで実に素晴らしい。だが人間界には実にむごたらしい出来事や考えられない事が起こります。

  彼らは話に夢中で、立ち止まったりまた歩き出したり、エルサレム入場後のことや弟子たちのこと、民衆の動きや裁判、そしてイエスの身に降りかかった一切の事、十字架で語られた言葉や葬り、そして今朝もたらされた信じ難い復活の話など、ひるむ事なく論じ合っていたのでしょう。

  ところがそこへ、どこからか復活のイエスが近づいて来て、いつの間にか一緒に歩き始められたのです。他の人が見れば3人連れだと思ったでしょうか。それとも他の人にはイエスの姿は見えなかったでしょうか。イエスは無言のまま、仲間のように彼らの話に耳を傾けて歩いて行かれたのです。

  やがてイエスは、「歩きながら、やり取りしているその話は何のことですか」と問われたのです。「目が遮られていて、イエスだとは分からなかった」とありますが、問われても、2人は相手の顔を見る気力もなかったのでしょうか。でも声だけでも誰か分かりそうなものですが、まさか復活のイエスだとは夢にも思いませんから、少しは似ていると思ったかも知れませんがそれ以上は考えなかったのでしょう。「2人は暗い顔をして立ち止まった」とあります。陰気な、暗澹たる、沈んだ悲しげな顔です。相当落ち込んでいたのです。

  そこでクレオパという弟子が、「エルサレムに滞在していながら、この数日そこで起こったことを、あなただけはご存じなかったのですか」と言いました。どこか剣のある言い方です。 あんたは旅人としてエレサレムで泊っていた筈なのに、最近起こったショッキングな事件を知らないなんて、「あんただけだよ。」暗澹たる気持が、皮肉っぽい剣のある言い方にさせたのでしょう。

  すると、「ポイア?」とイエスは聞き返されました。ポイア?どんな事?という意味です。ギリシャ語はただ一語です。イエスは全てご存知なのに「ポイア?どんなこと?」と聞き返すなんて、意地悪に聞こえませんか。しかし意地悪と言うより、イエスのユーモアです。口元に笑みを浮かべて言われた筈です。

  ここにイエスの私たちを越える自由なお姿が垣間見られます。私たち信仰者はいつも真面目でなければならない、クリスチャンは正直でなければならないと必要以上に堅苦しく思いがちですが、イエスは底の浅い方ではないのです。

         (つづく)

                                            2016年11月6日



                                            板橋大山教会 上垣 勝




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