詩人フランシス・ジャムとみ国


                      リヨン旧市街に佇むサン・ジャン大聖堂       右端クリックで拡大
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                                                  ただ一人の勇断 (上)
                                                  ルカ23章50―56節
 

                              (1)
  今日の個所にはイエスの死と葬りが出ていました。イエス様は33才、遅くとも37才で亡くなられました。

  平均寿命が上がって私たちの国は、今、男性80才、女性87才です。上がり過ぎるので、平均寿命以下で死んだ人を表彰したらどうかという冗談さえ交わされる時代です。社会は死と葬儀をテーマにする話で持ち切りで、教会の中には葬儀社を呼んで研修会をする所もあります。死やお墓に注目させ過ぎていないかと思います。遺産問題も絡み、経済問題や家族問題も含まれているのでマスコミは取り上げやすいのでしょう。

  余談はさておき、今日の個所にイエスの死と葬りがありますが、イエスは死に向かって生きられたのではありません。死でなく、神の国に向かって生きられたのです。死を見つめ過ぎると、怖くなったり、痛さや苦痛が大きく立ち現われます。しかし、イエスに従って、死でなく、神の国と復活に目を注いで生きるなら死の恐怖も苦痛も克服できるか、それ程大きな問題でなくなるでしょう。信仰を持たない人たちの世界では大きな問題として留まるでしょうが、主にある者はそれを越えて行くことが出来るでしょう。

  キリスト教は「死を覚えよ」、メメント・モリという事を語って来ました。しかし日本では「死を覚えよ」という言葉だけが独り歩きし、本来キリスト教は「死を覚え、ますます主を覚えよ」と語って来た大事な後半を削ります。これではキリスト教の命はすっぽり抜け落ちます。「死を覚え、ますます主を覚えよ。」死を覚えますが、死への注視でなく希望への注視です。主に在っての復活です。喜ばしい主への注視が欠けると暗い運命論に落ちて行きます。

  ある人が、老いることは単なる老化でなく恵みの時だと語っています。「人は神の憐れみによってのみ生きるという聖書のメッセージを深く知り得る恵みの時だ」(K.バルト)と言うのです。若い頃の私たちは、何かを主に差し出し、主に与え、自分が主体になって主に出会って行くと考えています。だが年を取ると、私たちの所に来て私たちに出会って下さる方、私たちを引き受けて彼のみ許に召し、ご自分のもとに引き上げて下さる方が主権者である神であることを知るに至ります。これが老年の知恵を作って行き、老年の豊かさになり、これが深い喜びになるのです。「死を覚えつつ、ますます主を覚える」ことが大事です。

  フランシス・ジャムという詩人がいました。生まれ育ったフランスのピレネーの片田舎に一生住んで、パリには数回しか行くことがなかった詩人。自分を、よろけながら歩いている騾馬(らば)のような者と譬えてやまなかった信仰の詩人です。リルケが「ピレネーの麓(ふもと)にいる詩人のようになりたい」と憧れたと言います。またクローデルは、「永遠に、傷ついた者が自由に飲むことのできる清らかな泉が湧き出ている」と讃えています。

       序詞
  「神様、
   あなたは私を人界に呼び出しなされた。
   それで私は参りました。
   私は苦しみ、私は愛します。
   あなたが下さった声で私は語りました。
   あなたが私の父と母にお教えになり
   両親が私に伝えた文字で私は書きました。
   私は私の道を行きます。
   子供達に冷笑されながら、
   頭を下げて通る重荷を背負った騾馬(らば)のように。
   あなたの御都合のよい時
   私はあなたのみ心のままの処へ参ります。

   寺の鐘が鳴りまする。」

 教会の鐘が鳴り、私はみ国はどんなに安らかで素晴らしい所かと思います。ジャムも「死を覚え、ますます主を覚え」たことでしょう。


       (つづく)

                                            2016年9月18日


                                            板橋大山教会 上垣 勝




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