呟(つぶや)かずにおれません。


                       マリー・ローランサンルーブルで)
                               ・



                                               つぶやきを聞いて下さい (中)
                                               詩編5篇1-13節



                              (2)
  さて5節以下と9節3行目以下は、呟きの原因、助けを求めて叫ぶ理由が記されます。「誇り高い者」とあるのは良い意味での自尊心でなく、自慢して傲慢に誇る者のことです。「偽って語る」とは虚言、嘘をつくことです。流血の罪とは、世界各地で流血事件が起こりますが、暴力をもって血を流すことです。この信仰者は、神は正しい光の神であり、闇や悪の神でなく悪人に味方する神でもないと歌い、私たちの信頼する神は、虚言を吐き、人を欺き、流血の罪を犯す者を憎まれる神だと明言します。主なる神は正しい倫理性を持つお方です。

  だが様々な闇の姿を持つこの世の中で、8節は、「しかしわたしは、深い慈しみをいただいて、あなたの家に入り、聖なる宮に向かってひれ伏し、あなたを畏れ敬います。 主よ、恵みの御業のうちにわたしを導き、まっすぐにあなたの道を歩ませてください」と訴えます。「深い慈しみを頂いて」とは、「あなたの慈しみは何と偉大でしょう」という内容です。

  彼は神の愛と慈しみの偉大さに心を打たれ、その偉大な憐れみを受けて、神の家に詣(もう)でるのです。自分に義とされる何かがあるとか、功績があるとか、立派だとか言うのでなく、神の深い憐れみを受け、恵みに与っている感謝で神を礼拝するのです。信仰は努力から来るのでなく、神の恵みから流れて来るものです。

  「ひれ伏し、あなたを畏れ敬います。」私たちプロテスタント教会の礼拝ではひれ伏すという事をしません。しかしキリスト教の伝統の中には、床に長くひれ伏して礼拝するものもあります。彼は、神への畏敬の念、厳粛な尊崇の思いを持って神の前に出てひれ伏したのです。そして「恵みの御業のうちにわたしを導き、まっすぐにあなたの道を歩ませてください」と、誘惑の手を振り放って真直ぐに歩めるように祈ります。ここにも彼の謙虚な姿があります。

  なぜなら、「わたしを陥れようとする者が」いるからでしょう。「彼らの口は正しいことを語らず、舌は滑らかで、喉は開いた墓、腹は滅びの淵。神よ、彼らを罪に定め、そのたくらみのゆえに打ち倒してください。彼らは背きに背きを重ねる反逆の者。彼らを追い落としてください」と求めます。

  ここでもう一度、彼が長く直面していた難題を告白します。これが呟きの原因です。それは、私を陥れようとする者があること。正しいことを語らず、偽りを語り、舌は滑らかで説得的であり、立て板に水のように滔々(とうとう)と自信に満ちて語ります。

  彼らの喉は開いた墓。腹は滅びの渕。どこに落とし穴があるか分かりません。言葉が流暢に出て来る喉は、開いた墓のように人を飲み込む。その腹は滅びへと誘い込む深い深淵である。彼の経験がこう言わせているのでしょう。

  人を真に愛するためでなく、人を飲み込むため、自分の腹に入れるためである。人々を犠牲にして自分が栄えるためである。実に気が抜けない。言葉は滑らかでもその心根はあくなき貪欲である。それゆえ、「彼らを罪に定め、そのたくらみのゆえに打ち倒してください」と祈るのです。

  55篇にまた、「彼らは…、口は脂肪よりも滑らかに語るが、心には闘いの思いを抱き、言葉は香油よりも優しいが、抜き身の剣に等しい」とあります。この5篇と似たシチュエーションです。

  人を陥れようとする悪人の醜さ、恐るべき醜悪さを語ります。彼らは自分も陥れられた経験があるのかも知れません。自分も騙されたことがトラウマになっているのかも知れません。だがそれか解決されないままに、邪悪な心で人を陥れるのでしょう。

  生き馬の目を抜くようなこんな世界が現実社会にあるでしょうか。しかし今日の実業界、競争社会の中でも、ある所には存在します。

  舌と腹が裏腹であり、矛盾しているのが悪人の特色です。「口先で祝福し、腹の底で呪う」(53篇)。

  朝毎に主の前で祈るのは、このような人間が、今日(きょう)も目の前に現れるだろうからです。殴りつけたいばかりの人間。煮ても焼いても食えぬ、しかも徒党を組んでいる場合は、逆にとっちめられます。呟かざるを得ないのです。


      (つづく)

                                           2016年6月19日



                                           板橋大山教会 上垣 勝




  ホームページは、 http://www.geocities.jp/itabashioyama_ch/

  教会への道順は http://www.geocities.jp/itabashioyama_ch/img/ItabashiOyamaChurchMap.gif



                               ・