彼らが喜びにならぬ限り、私の喜びにならない


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                          ピカソ(1)・ルーブルにて



                                                    聖霊による洗礼 (下)
                                                    使徒言行録1章3-5節



                              (4)
  聖霊のもう一つの働きとして、主にあって、私たちを一つにする働きがありますが、それはまた別の機会にお話し致しましょう。

  最後に、先日の木曜日の夜、テゼの歌を使った祈りの集まりで歌った歌を紹介します。 ♭聖なる霊よ、愛の火を灯すため、おいでください、聖なる霊よVeni Sancte Spiritus, tui amoris ignem accende.……♭

  この歌を繰り返し歌いました。その時申しましたが、この歌を歌いながら、神の霊、聖なる聖霊に向かって、「愛の火を灯すために、おいで下さい」と歌いつつ祈ったのです。汚れた霊や、悪の霊に祈っているのではありません。憎しみの霊や嫉妬の霊は、私たちの心に「愛の火を灯す」ことはできません。愛に似た火を灯して自分の素晴らしさ示す人は多くいますが、それも汚れた火の一種であって「まことの愛の火」ではありませんが、ただそれは他人事でなく私たちも似たり寄ったりです。自分の力で何とか愛の火を灯そうとして自分を輝かしている事があるのではありませんか。ですから、聖なる霊が愛の火を灯して下さらなければ、本当の愛、無償の愛に燃えることは出来ません。

  イギリス中部の都市バーミンガムの中心部に聖チャド・サンクチャリという場所があります。サンクチャリとは鳥獣保護区の意味ですが、避難所です。どんな避難所かと言うと、幾つかの教会がサポートして運営している難民支援所で、毎週150人程の難民や難民申請者が衣服や食料などを貰いにやって来ます。その他に150人以上が英会話を習いに来ます。先生は学生や青年、主婦やサラリーマン、お年寄りなど皆、ボランティアです。

  そこで2年半英語を教えて来た青年は、テゼによく行く青年のようですが、生易しい道ではなかったが、このチャド・サンクチャリが自分のお気に入りの場所になっていると、最近書いていました。

  ここに来る人たちは、誰しも自分の国のおぞましい状況から逃げて来た人たちで、想像を絶する旅をしてやっと着いたのです。ここに来るまで、何度も嫌疑を掛けられ、嫌疑とはお前はイスラム国のメンバーだろうというような疑いです。また追放されそうになったそうです。ある若い女性は、自国の家にほぼ全てのものを残し、手に僅かなものを掴み、命からがら逃げて来たのです。途中、海を渡るのは危険な、いつ破れるか知れぬゴムボートに超満員で乗り、地中海を何日も漂って幸運にもヨーロッパに着くと、持ち金の多くを払って冷蔵トラックに乗せられて長い旅をし、ドーバー海峡を渡り、全く見知らぬ街バーミンガムで降りると、そこは一言も分からない想像を超えた未知の世界だったのです。映画やファンタジーではありません。だが彼らは必ず状況はよくなると頑固に信じている。それは、真の苦しみとは何かを知っているからだろう。また本当の希望とは何かを、希望が持つ意味を知っているからだろう。彼らの話に耳を傾けていると、涙が出そうになりますとありました。

  この青年は、今はここが喜びと命を与えられるお気に入りの場所だと書いていました。だが、それは一言で言い表すことが出来ない喜びや命であって、彼ら難民や難民申請者が、さんざん嘗(な)めて来た苦しみをやがて喜ぶことになるまでは、到底自分の喜びにならず、彼らが味わった苦しみが、今では転じて喜びだと言うようになって始めて、自分も喜びだと言えるようになる喜びですと書いていました。

  彼は泣く者と共に泣き、喜ぶ者と共に喜んでいるのだと思います。

  「聖なる霊よ、愛の火を灯すため、おいでください」とは、こういう無償なまことの愛への祈りでしょう。まことの愛の火を灯して下さい。そういう祈りが洗礼を授けられる時に心に与えられるのです。聖霊による洗礼は、私たち罪ある人間をも、そういう無償で愛を与える世界に導いて下さると言ってよいのです。


         (完)

                                           2016年5月15日




                                           板橋大山教会 上垣 勝




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