なぜ復讐を求めなかったか


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                          ステンドグラスの修復(5)





                                               敵のために祈ったステファノ (中)
                                               使徒言行録7章54節-8章4節
 

                              (2)
  さて、彼らが「石を投げつけている間、ステファノは主に呼びかけて、『主イエスよ、わたしの霊をお受けください』と言った。 それから、ひざまずいて、『主よ、この罪を彼らに負わせないでください』と大声で叫んだ」とあります。

  彼は天を仰ぎ神に目を向けると、そこにキリストを見た。その主イエスに呼び掛けたのです。彼は、神と共にキリストを見、キリストと共に神を見た。神とキリストは一つだ、同じ方だと直感してイエスに祈ったのでしょう。

  こうして神とイエスの一致の幻は、彼の祈りを決定的に方向性づけます。これは革命的に新しいことでした。使徒言行録でもこれまで使徒たちは神に祈って来ました。だがステファノはここに歴史上初めて主イエスに祈ったのです。そのことがまた、ユダヤ人を激怒させたのです。彼らは「大声で叫びながら耳を手でふさぎ、ステファノ目がけて一斉に襲いかかり、都の外に引きずり出して…」とあるのが、その事情を現わしています。決断じて耳にしたくなかったことです。

  彼は、「主イエスよ、わたしの霊をお受けください」と呼び掛けましたが、その後、「跪いて」とあります。改めて座り直して祈ったのでしょう。「主よ、この罪を彼らに負わせないでください。」心から彼らの罪の赦しを願うためです。今日の中心です。

  イエスは十字架上で、「父よ、私の霊をみ手に委ねます」と祈られました。これは詩編31篇の言葉でもあります。ステファノはほぼこれと同じ言葉で、「主イエスよ、私の霊をお受けください」と、イエスに祈ったのです。まだ三位一体ということを知らなかったでしょうが、天を仰ぎ、そこに神の輝きの中にいる復活のイエスを見て、誰であるかを確信して、イエスに祈ったのです。彼は人の目に見えないものを聖霊によって見たのです。この時、彼だけがそれを見て、その証人となります。

  十字架のイエスと、永遠なる神との一致の発見は、驚くべき結果を生みます。彼は殉教しますが、その殉教は当時のユダヤ教徒の殉教と明らかに違います。ユダヤ教の殉教者は、神が迫害者たちに正義を行なって下さいと報復と呪いを祈りました。「お前たちは、神に罰されずには置かない。神の手から逃れることは決して出来ない。呪われよ」と、迫害する者を威嚇したのです。詩編に何度もこの類いのものが出て来ます。

  だが、神を仰いでそこに十字架と復活のイエスを目にしたステファノは、かつてゴルゴタの丘で、「神よ、彼らをお赦し下さい。何をしているのか分からないのです」と涙を持って祈られた主を見ているので、ユダヤ教のように報復を求めることは出来ません。彼は今、自分に現れた愛するイエスが生きられたようにしか祈ることはできません。

  では敵をも愛されたイエスに、報復や復讐の代わりに何をどう求めるのでしょう。もはや彼は復讐を求めず、ただ彼らを神のみ手に委ねるのみです。こうして彼は、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と、報復でなく赦しを祈った。彼は天に、磔(はりつけ)になり復活されたキリストを見上げて、このお方にのみ従って行くのです。十字架のイエスに神を見、赦しのイエスに神を見て、復讐を求めないのです。

  6章を見ると、ステファノの顔はさながら天使の顔のように見えたとありますが、赦しを祈った彼の顔は、大きな石つぶてで頭や顔、全身から真っ赤な血しながらも、信仰によって赦しへ突き抜けて益々天使の顔のごとく輝いて見えたでことでしょう。

  現在、ステファノが殉教した場所がステファノ門のそばに残っていて、2千年前に拘わらずその辺りに石の瓦礫が散らばっています。そこに立つと、彼の壮絶な死と共に死に臨んでの彼の確信、信仰者ステパノの輝いた顔を色々と想像させられるのです。

        (つづく)

                                           2016年5月8日



                                           板橋大山教会 上垣 勝




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