K男さんの葬儀説教


                           東京港自然公園
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                                               故 K男さんの葬儀説教(上)
                                               詩編90篇
                                               


                              (1)
  A子さんが長く支えられ、A子さん宅に長く居候しておられたパートナーのK男さんが、21日に68歳で亡くなられました。朝は元気に新聞を取りに1階に降り、その後トイレに行ったり普段と変わりがありませんでしたが、頭を洗って急にそこにしゃがみ込んで立てなくなり、その時は話は出来ましたが、救急車で健康長寿医療センターに運ばれ、A子さんから私にお電話があって駆けつけましたが、4階のICUに入るのに手間取り、丁度息を引き取られた時でした。先程の詩編90篇にありましたように、大水のごとくザーッとあっけなく押し流される人の命のはかなさを思っています。

  しかし、ICUでは、静かなとてもいいお顔をしておられて、まるで天国で眠っているような、誰しもああいう顔で召されたいと願う程の気持よさそうな寝顔でした。

  戦後まもなく東北の大きな材木店の総領息子として生を享け、祖父母に特別可愛がられ、弟妹とは別格の扱いを受けて育たれました。私はB子さんから色々お聞きして、K男さんは愛のある、いいご家庭でお育ちになったのだと確信しました。

  気持のいい素直な人、面倒見がよく人から慕われたとA子さんはおっしゃいました。

  祖父は、孫を膝に乗せて車を運転して材木を買いに行き、「この山一つ頂こう」、「この山も一つ」と、その場で山全体の材木を買って、皆の目の前で胴巻きから大金を出して支払う商いを、幼少から見慣れていたと聞きました。

  丁度日本は戦後の復興期を迎えていましたから、この地方の杉は住宅建築で全国から重宝されて引く手あまた。さぞ莫大な財をなさしたことが窺われます。

  ですから良家のお坊ちゃんであり、人柄は生涯良かった。決して悪人でない、温かみもある人だったのです。

                              (2)
  だが祖父が死ぬと親や兄弟から避けられ、やがて勘当まで行ったのです。どうしてか祖母はその後、頭を丸めて女子修道院に入ったと聞きました。学生時代から高級車でも何でも手に入れることができ、祖父が後から店に行って支払ってくれたというのです。だが、何不自由なく育つ内に、いつの間にか金遣いが荒く、何でも欲しいものはどんどん買ってしまい、親に相談なく買って来る。後から親が払わなければならない。しかもただの買い物ではなく、どんなに高額でも気に入った車は手に入れる。

  親もたまったものじゃあなかったでしょう。一緒に暮らしても、近くでおられても、たとえ離れて暮らしても、どんな目に遭うか分かりません。遂に自己防衛のために勘当したのは明らかです。恐らくこういう場合は、殆どの家庭でこういう決断を下すか、これに近い対応を取るでしょう。

  祖母はカトリックのお嬢さん学校の高校短大でお茶とお花の先生をしていて、宗家家元に次ぐ高位の人。このおばあちゃんからも可愛がられました。K男さんは東北の国立大学を出ましたが、おばあちゃんが授業に行く時は、お茶のお菓子やお花を女学校に届けたり、初釜には羽織袴で大抵女性の集まりである席に出席したりという生活です。

  これ程愛され可愛がられれば、どうして人柄が悪くなるでしょう。人柄は実によく、決して悪くないが、お金の扱い方が身に付かなかったというのです。

  大人です。本人に責任はあるでしょう。だが家庭教育の責任もあったのでしょう。母親も大の買い物好きだったと聞きますし、K男さんが買うと、店の金庫からどっさり札束を持って来て上げていたとも言います。家庭教育の被害者とばかり言いませんが、その一面もあったかも知れません。

       (つづく)

                                    2015年12月28日(月)



                                    板橋大山教会 上垣 勝



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