希望という弾丸を撃ち込まれた


                            モンマルトルで
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                                                  悲しみが喜びに変わる (3)
                                                  ヨハネ16章19-22節
        

                              (2)
  さて、イエスは21節で、ご自分の死と復活を出産に譬えて、「 女は子供を産むとき、苦しむものだ。自分の時が来たからである」と語られました。

  10年前に、英語が出来ないままイギリスに住みました。ある授業で、Labour という言葉が出て来て意味が分かりませんでした。レイバーは仕事、労働のことですが、陣痛もレイバーだったのです。その時、陣痛に始まる出産が、いかに骨の折れる重労働かと思いました。レイバーは元は、重い荷物を担いでよろめくことを言います。子どもを産むとはそういうことでしょう。その後も親はしばしばよろめきますが…。

  「自分の時」とは面白い表現です。陣痛の苦痛の時を指しますが、この自分の時は、誰も代われない時です。彼女しか担えない、彼女に指定された時です。

  と言っても、今は、事情によってはお金を払えば代理出産が出来る時代です。「自分の時」という自分の陣痛なしに、痛まず自分の子を持つ人たちがいるのです。考えれば恐ろしいです。ドンドン自然でなくなって来ています。これは何を意味するのでしょう。世界は人類という知的動物たちの実験場に化して来た感があります。

  冗談めいたことはそれ迄にして、次に21節で、「しかし、子供が生まれると、一人の人間が世に生まれ出た喜びのために、もはやその苦痛を思い出さない」とありました。赤ちゃんが生まれてしまえば、苦しみをすっかり忘れてしまうのです。あれ程の難産であったのにケロッとしている。ケロッとしているだけでなく勝ち誇ったように母親は幸せそのものです。一人の人間が世に生まれたという喜びは、何ものにも代えられない幸福なのでしょう。

  青年時代にインドのタゴールの詩に惹かれました。その中に、「全ての嬰児(えいじ)は神がまだ人間に絶望していないというメッセージを携えて生まれて来る」というのがあります。子どもが生まれて来るとは、本当にそういう事かも知れません。世界に絶望的な事件が起こる度に思い出す詩です。

  さて、こう語ってイエスは22節で、「ところで、今はあなたがたも、悲しんでいる。しかし、わたしは再びあなたがたと会い、あなたがたは心から喜ぶことになる。その喜びをあなたがたから奪い去る者はいない」と言われたのです。今日の聖書の中心です。

  復活のキリストが、再び弟子たちと出会って下さるのです。その時、あなた方は心の底から真の喜びを与えられる。再び祝祭と言っていいような喜びが起こるのです。祝いの喜びで充たされるのです。そしてその喜びを誰も取り去る者はない。ある英訳聖書は、「取り去ることは誰も出来ない」と強く訳しています。

  未来永劫、あなたに授けられた喜びはあなたから離れない。心深く希望という弾丸が撃ち込まれたのです。弾丸は致命的で、いかなる者も私たちから希望の弾(たま)を取り去ることはできないのです。

  確かに現実社会には、私たちから喜びを奪うものが数々あります。仕事が順調にいかなければ喜びが奪われます。批判されても喜びを失います。自分が病気になっても、家族が長く不治の病で働けないと喜びは掻き消されます。最たるものは働き盛りの者にも圧倒的な力を持って襲う死です。死以上に喜びを奪うものはありません。

  ただ、パウル・ゲルハルトという人は、こう書いています。彼の詩は讃美歌となって私たちの讃美歌の中にも10程入っています。「私は墓の中に入って行こう。それでもいつも喜んでいよう。最も強き方が共にいて下さり、最も高き方によって高められる者(救われる者)は、完全に滅びることはないだろう。」即ち、キリストを信じていく時、死の中でも、「喜びをあなた方から奪い去る者はいない」と言うのです。死の中でも私たちは滅びないのです。この希望の弾を誰も滅ぼすことはできないのです。


       (つづく)

                                             2015年9月20日

                                             板橋大山教会 上垣 勝



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