闇の一歩手前です


                              最高裁判所          (右端クリックで拡大
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                                               甕(かめ)とブドウ酒の譬え (2)
                                               エレミヤ13章12-27節


                               (2)
  神がこう語られるのは、本来裁くためではありません。彼らが自分の罪を告白して神に栄光を帰すためでした。15節はこう言います。「聞け、耳を傾けよ、高ぶってはならない。主が語られる。あなたたちの神、主に栄光を帰せよ」とある通りです。

  先ず14節の意味は、神は、こうするぞ、ああするぞ。これでも聞かぬか。どうして聞かぬか、全く滅ぼすぞと、恐ろしいことを次々言われるのは、何とか耳を傾けさせるためです。何とか聞いてくれ、このままだと滅びだぞ。私はブドウ酒の甕を全く滅ぼすぞと、神がまるで這いつくばって、聞いてくれと叫ばれるのです。

  また、16節以下でエレミヤが、「あなたたちの神、主に栄光を帰せよ。闇が襲わぬうちに、足が夕闇の山でつまずかぬうちに…」と申します。これは社会に恐ろしい闇が訪れぬ先に、どうか、何とか、主に栄光を帰す生活をして欲しい。今ならまだ暗黒ではない。だから何とか耳傾けてくれ。高ぶらず、少しだけでも耳を貸してくれとの、預言者エレミヤの悲痛な訴えです。

  そうでなければ、私はあなた方の傲慢に対して激しく泣いてしまうだろう。涙が次から次へ、とめどなく流れ出て来る。どうすればいいのだ。17節は預言者エレミヤのむせび泣きです。彼は民を愛した預言者です。真にその民の行方、国の行く末を案じ、激しく涙するのです。

  エレミヤが、自分の属するユダの国に対して厳しく語り、涙するのは、自国の歴史を自虐的にマイナス部分をやたらと強調して見るからではありません。愛するが故です。彼ほど国を愛する預言者はいません。だが彼は国賊と言われ、売国奴呼ばわりされました。それでも彼は国を愛するゆえに国の行く末を案じ、激しく涙するのです。

  戦前、矢内原忠雄は東大教授の職を追われました。彼は国を愛する故に語り、書き、警告しました。彼はこのエレミヤ書イザヤ書の研究で支えられていたのです。追放されましたが戦後東大に戻り、総長になりました。彼こそ本当に国を愛した一人だったと言えるでしょう。

  今日はエレミヤ書ですが、私たちはずっとルカ福音書を学んで来て、暫らく前はイエスエルサレム入場の場面を19章で学びました。その時、イエスは、「エルサレムに近づき、都が見えたとき、イエスはその都のために泣いて、言われた。『もしこの日に、お前も平和への道をわきまえていたなら……。しかし今は、それがお前には見えない。 …』」とおっしゃったとありました。

  イエスの涙と今日のエレミヤの涙は、共に、国や社会を思う真実な愛ゆえに流す涙です。今週も、先週も罪への厳しい指摘が続きますが、その背後にまことの愛があることを忘れてはなりません。国を真に愛する故に憂えるのです。

  たとえ自虐的だと言われても、エレミヤは国が歩んできた事実に立って率直に預言します。歴史を曲げて語りません。誰もが認める事実に立たなければ、堅実で信頼できる国は築けないからです。

  先程申しましたように、まだ闇ではないのです。だが闇の一歩手前まで来ています。上流から静かにゆったり流れて来た川が、今一歩先に進めば、ドドーと地響きを立てて滝壺に落ちて一巻の終わりです。だが今、悔い改めれば、一歩手前であるが、助かる見込みはある。

  だが悔い改めず、神に耳を傾けなければ、容赦なく滝壺に吸い込まれるでしょう。だからエレミヤはワンワンと泣き、さめざめと泣き、すすり泣くのです。17節の最後で彼が、「主の群れが捕らえられて行くからだ」と語る通りです。待っているのは、バビロニアへの強制連行であり、国の全滅であるからです。そしてそれが実際にBC587年に起こるのです。

  ここを読むと、エレミヤのむせび泣きが今日も耳元で聞こえる気がします。エレミヤは神の愛を語った預言者です。人間的憎しみや憎悪で語るのではありません。だが神の愛は時には極めて厳しくなります。真実で聖なるお方は、人間の側の真実を求められるからです。そして神に真実に応答して行くなら、道なき所でも、必ず抜け道を拓いてくださる方であります。

             (つづく)

                                             2015年7月5日



                                             板橋大山教会 上垣 勝



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