月給8万円の大統領
ブルゴーニュのある館の庭先 (右端クリックで拡大)
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身寄りのないやもめ (4)
Ⅰテモテ5章17-25節
(4)
以上、2千年前に貧しいやもめの支援が教会内に生まれていたというのは驚くべきことです。教会内福祉であり、教会内互助制度とまだ範囲は限られていますが、教会は主において神の家族であるという信仰が徹底していた証拠でしょう。
それと共に、教会に過度な負担をかけないようにということは、守りの姿勢だけでなく、信仰による個人の自立、独立という面も貫かれています。必要以上に教会の世話になったり、自分たちは手抜きして教会の世話になるようなことをすべきでないことも明確に語っています。
私は、日本の公的補助や社会保障制度がこのような教会福祉からどのような影響を受けて来たか知りません。しかし今の病院の源流は教会と修道院にありますし、世界の福祉政策の源は、今日の聖書にあるようなイエスの愛に遡(さかのぼ)る愛と思いやりから発展したに違いないと思います。
「大事にしてあげなさい」とあったように、人として尊敬を持って接する。その人の価値を、その存在を尊ぶ。正しく高く評価する。敬う。「大事にする」ということが最も基本にあらねばならないでしょう。
(5)
話は変わりますが、世界には私たちの知らない立派な人物がいるものです。日本のせせこましい中だけを見るのでなく、できるだけ広く世界に目を転じる必要があります。特に若い方々はそうして頂きたいと思います。
ウルガイという国は南米ブラジルの更に南にあります。初めて知りましたが、ついこの間退任したウルガイのホセ・ムジカ大統領は、世界で一番貧しい大統領と言われて来たそうで、この人のことを海外の新聞が報じていました。
彼の月給は僅か8万円でした。貧しい国だからではなく、大統領給の大半、何と90%を慈善に献げて、一般の平均給与と同じ月8万円しか貰って来なかったのです。こう語っています。「大統領になったからといって、私のライフスタイルを変えようと思わない。他の人には不十分かも知れないが、私は必要以上のものを頂いている。犠牲ではない。義務だ。」大統領の義務だというのです。
奥さんと共に、3本足の犬と2人の護衛の警察官とで首都の郊外の小さな農家で暮らして来ました。「私は最も貧しい大統領と言われているが、私自身は貧しいと思っていない。貧しい人々というのは、豪華なライフスタイルを維持しようとして仕事だけに追われ、もっと多く、もっと多くと生きている人達である。」大変考えさせられる言葉です。
大統領や首相というと、どの国でも運転手つきの豪華な専用車で動き回りますが、彼はオンボロのマイカーを運転して来ました。毎朝、郊外の家から妻と官邸に出勤しましたが、途中、徒歩で職場に向かう人たちをしばしば自動車に拾って行くのが日課でした。
前の独裁者に反対して6度銃撃され、14年間投獄されたそうです。
月給8万円。90%にあたる約80万円は慈善に献げる。こういう大統領が地球の裏側に先日までいたのです。全く知りませんでしたが、何と愉快なことでしょう。日本では新聞社は知っているでしょうが報道しない。翻って、我が国はどうでしょう。大統領制ではありませんが、非常に、人間の値打ちはどこにあるのかというものを深く考えさせられます。
いや、牧師たちはどうでしょう。パウロは、フィリピ書4章で、「わたしは、自分の置かれた境遇に満足することを習い覚えた。貧しく暮らすすべも、豊かに暮らすすべも知っています。満腹していても、空腹であっても、物が有り余っていても不足していても、いついかなる場合にも対処する秘訣を授かっています」と獄中から書きました。彼は、「足ることを知る」と書いたのです。
初代教会を支配していたのは、このような格調高い生き方でした。それが今日の聖書にあるような、健全な教会福祉、教会内互助制度、そして何よりも、真に身寄りのないやもめを大事に世話するという、やがて後世に影響を与えるような在り方を生み出していったのです。
(完)
2015年3月8日
板橋大山教会 上垣 勝
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