私自身の差別の心が見え隠れします
ブルゴーニュの民家 (右端クリックで拡大)
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エリコの道端であった事件 (中)
ルカ18章35-43節
(2)
だが今、彼はそんな事は気にせず、それを聞くとすぐさま、「ダビデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と叫んだのです。すると、先に行く人々が叱りつけて黙らせようとした。ところがますます、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けたのです。主よ、憐れみたまえ。キリエ・エレイソン。教会で2千年にわたって受け継がれてきた歌であり祈りです。それが今日の箇所で心に止まります。
2千年前の盲人が置かれていた状況は、今では想像する以外にありませんが、経済的な、社会的な、また家族や人間関係における諸問題は、今では考えられないほど悲惨な所に置かれていたに違いないと思います。彼は地の深い底から引き絞るような声を上げて、叫び求めたのです。
明治初年頃の社会を、黙阿弥という歌舞伎作家が、筆屋幸兵衛「水天宮利生(めぐみ)の深川」という人情物の作品で描いています。
そこに全盲の18才位の娘さんが出てきます。家は元士族ですが没落士族で、母は産後の肥立ちが悪くて赤子を残して最近亡くなり、父と5才程の妹と自分の4人家族で、長屋に住んでいます。父親は筆を作って町に売りに行きますが、そう買ってくれる人はなく極貧生活です。
3月(みつき)前、高利貸しから3円借りました。ところがたった3月で利子が8円に膨らみ、元本とで10円になりました。借金取りが来て、払わないと布団も鍋も釜も持って行くと脅すのです。
冬の凍える寒さの中、布団がなければ子供らは寒さを凌げないと言っても聞き入れません。5才の女の子が、{ ワタクシハ寒サコラエマスルガ、トト様ト、オネエ様ガ寒イノデ、心配デゴザイマスル }と言うのです。その言葉に思わず涙が滲んで来ます。先日初めて新しくなった歌舞伎座に行ったのです。松本幸四郎が父親役でした。都民の半額券を手に入れたからです。
娘さんは全盲で、嫁に行けないし、何の仕事もできない。家計を圧迫して、家族の重荷になっている自分を責めています。ですから、父親の膝にすがって、{ ただ死にとうございます }と、悲しいことを言い出し、涙に明け暮れる日々です。
それをかばって妹が、{ 今二私ノ目ガ潰レ、オネエ様ノ目ガ見エルヨウニナルカラト、水天宮様ガ言イマシタ }と言って励ますのですが、返って痛々しくてなりません。
すると隣の大家の家から浄瑠璃が一斉に歌い出します。新しい立派な蔵が完成して、今、宴げの真っ最中です。
すると幸四郎扮する父親が、{ 隣の家では立派な鯛のお頭付きで祝っているが、塀一枚隔てた我が家では、貧乏に苦しめられている }(お粗末さまでした)と嘆いて、心中に追い込まれていく涙のストーリーです。
エリコの道端の盲人の背景はよく分かりません。しかし、全盲のためにまっとうな稼ぎができないのを悔やみ、家族の世話になりっぱなしで、迷惑かけている罪悪感。一生世話になって過ごすしかない哀れさ、歯がゆさ、肩身の狭さを覚えていたのは容易に想像できます。
もし目が見えさえしたらと思うと、やり切れなかったでしょう。なぜ自分がこんなに惨めな苦労をしなければならないのか。人と比較すると、目の見える人々への羨望が募ったでしょう。人からバカ扱いされる日々に、目が見えるようになりたいと魂の底から叫ぶ日々であったでしょう。
ですから、「イエスのお通りだ」と聞いて、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫びだし、人々が、「黙れ、コラ、静かにしろ」と叱りつけて黙らせようとすると、イエスがどこにおられるのか分かりませんが、一層大声を張り上げて、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けたのです。
「コラ、静かにしろ」とは書かれていませんが、叱りつけて黙らせようとしたのですから五十歩百歩です。もっと酷い言葉だったかも知れません。そこにも健常者の、いや、私自身の差別の心が見え隠れします。
暫くして、近くに来られたイエス様が、「立ち止まって、盲人をそばに連れて来るように命じられた」のです。彼が近づくとイエス様は、「何をしてほしいのか」とお尋ねになったので、「主よ、目が見えるようになりたいのです」と申しました。
施しでなく、施し以上のもの。癒しを求めたのです。願いの核心を率直に伝えた。それはズバリ救われることでした。経済生活のことでなく、全人間的な回復を願ったのです。それほど盲人であることに苦しめられていた。
するとイエスは、「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った」と言われた。すると、「 盲人はたちまち見えるようになり、神をほめたたえながら、イエスに従った。これを見た民衆は、こぞって神を賛美した」というのです。
(つづく)
2015年2月22日
板橋大山教会 上垣 勝
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