マリアの "Let it be"


                      Le Levry の村までやって来た証拠写真です。
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                                                    マリアの "Let it be"

                                                    ルカ1章26-38節
                                                    クリスマス・イヴ礼拝


                              (序)
  先ずこのクリスマスに、戦争やテロで平和を失った世界の人たちに、平和が来ますように。貧しさと暗闇に置かれている人たちに、キリストの救いの光が輝き、希望が与えられるように祈ります。

                              (1)
  さて、御使いのみ告げを聞いた乙女マリアは、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と、神の前に従順に答えたとあります。

  しかし最初、「おめでとう」と呼びかけられた乙女マリアは、どんなに戸惑い、驚いたことでしょう。うら若い彼女は「一体この挨拶は何のことかと考え込んだ」とあります。結婚前の彼女は不安になり、怯え、どんなに戸惑ったでしょう。

  マリアはヘブライ語でミリアム、「苦い没薬」を指します。彼女の誕生には、苦い、辛い、惨めないきさつがあってこの「苦い没薬」という名が付けられたと言われます。賛美歌でも「賎(しず)の女(め)をば」と歌いますが、彼女自身が自分のことを身分の低い卑しい女と語っています。隅っこで、静かに息を潜め、小さくなっているような女性で、「おめでとう」と晴れ晴(ば)れしい言葉を掛けられることがなかった乙女です。

  ですから、「あなたは男の子を産む。イエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。彼に父ダビデの王座をくださる。 …」と言われた時は、嬉しさより、恐怖に襲われたのです。

  マリアが、「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに」と語って御使いに抵抗したのも当然です。急に明るい光に照らされ、光のショックで目がくらんだのです。暗闇にそっといた時の方が、ずっと居心地が良かったでしょう。

  彼女は、「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに」と、この言葉の一撃で御使いを撃退しようと思ったのです。これは誰にも客観的で、どんな者にも通用します。御使いも自然の法に逆らうことは不可能です。

  ところが御使いは、「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。 …」と語り、高齢の不妊の女性、あなたの遠縁にあたるエリサベトが身ごもり、早や6ヶ月だと語って、「神にできないことは何一つない」と言われた時、彼女は「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と語ったのです。

  最愛のヨセフと別れなければならないかも知れない。石打の刑にされるかも知れないという、不安を突き破って、神のお告げ通り、「この身に成りますように」と大胆にも答えたのです。

  今、私は大胆にもと申しました。彼女の言葉は、英語では、“Let it be to me …”となっています。“Let it be to me …”とはどういう意味でしょう。世界中の聖書は、「お言葉通りこの身になりますように」と訳しています。元のギリシャ語がそういう意味だからです。

  “Let it be ”、「お言葉通りこの身になりますように。」

                              (2)
  ポール・マッカートニーが作詞し、ビートルズが歌ったのが、“Let it be ”という有名な曲です。世界的にヒットして、世界中に“Let it be ”を広めました。当時、日本の多くの若者もこの歌に慰められ、希望を持ち、力を得たと言われています。今でもこの歌を聞くと励まされるという人たちが、皆さんの中にもおいでかも知れません。

  “Let it be ”は、色んな含みがある言葉ですが、日本では「なすがままにして置きなさい」とか、「あるがままに」、「なるようにしかならない」とか、更には「勝手にしゃがれ」と訳されたりしています。“Let it be ”。訳しにくい言葉だと思います。

  それにしても日本では、“Let it be ”が、ルカ福音書1章38節の乙女マリアの言葉と関係する言葉であるのを知らずに訳している場合が多いようです。知っていれば、「勝手にしゃがれ」とか、「なるようにしかならない」とは訳さないでしょう。それなら諦めや運命論や投げやりです。欧米では、母マリアの言葉に重ねるから大ヒットしたのでしょう。

  ただ複雑なのは、この歌は、ポール・マッカートニーが、ビートルズが分裂状態になって悩んでいた時に、彼の亡き母が夢に現れて、“Let it be ”と囁いたというのです。しかも彼の母の名が、メアリーすなわちマリアで、ですからイエスの母マリアの“Let it be ”なのか、マッカートニーの母マリアが語った“Let it be ”なのか、解釈によって訳が違ってくるということになるのです。

  彼の母なら、「あるがままに」でも「なすがままにして置きなさい」でもあり得ます。

  ビートルズの歌い出しは、「私は困り果てた時」とか「私が暗闇にいた時」という言葉です。途中にも「夜空が曇って、星は見えなくても」という、いかにもイエスの母マリアの苦い状況を思い浮かばせる言葉が散りばめられて、どちらのマリアか紛らわしくさせるのです。

  私はポール・マッカートニーの母マリアが夢に現れて、どんな意味で”Let it be”と彼に語ったかは知りませんが、イエスの母マリアが語った“Let it be… (お言葉通り、この実になりますように)”は、希望に満ちた言葉でした。ここには神への静かな美しい信頼が溢れています。この静かな信頼が溢れて大胆な言葉となったのです。これまで隅っこで、小さくなっていた若い乙女でしたが、この言葉には神の御言葉に信頼した人間の逞しさ、晴れ晴れした大人の姿が漂っています。人生に対する前向きな勇気があります。

  これはマリアの信仰の言葉です。彼女はこの言葉で御子を迎える一番良い準備をしたのです。

  「お言葉通りこの身になりますように。」この言葉が彼女の口から発せられることによって、御言葉が彼女の内に成就していくのです。それが御子の誕生です。あなたのご意志がそうであるのなら、そうならせて下さい。私を神の道具としてお用い下さい。一切あなた様のお働きです。お委ね致します。乙女マリアは小さな体と心を神に明け渡したのです。決して先ほど言ったような運命として諦めますとか、勝手にしゃがれではありません。

  どうしてこれほど彼女は変えられたのか分かりませんが、彼女が”Let it be”を語った時、その瞬間から、彼女は御言葉によって、これまでとは違う考えをする乙女に造り変えられたのでしょう。御言葉への応答、意志、決断。その時、神が彼女の生きる姿勢をお変え下さったのです。

  イエスはしばしば、「あなたの信仰があなたを癒したのだ」とか、「あなたの信仰があなたを救ったのだ」と言われたことがありますが、神を信じ、神に委ね切る信仰が彼女を新しくしたのです。

  乙女が身ごもり子を産む。処女懐胎。これは信じられない、奇跡だと言われます。最近もそのように言われた方があります。私もそれはなかなか信じがたいことです。だが思うに、彼女が、イエスの母となるように選ばれるというみ告げを信じたということの方がもっともっと奇跡です。「神にできないことは何一つない」と37節にありますが、不可能を可能にすることを乙女マリアが信じた事の中に奇跡があります。

  平凡な、しかも幼い頃から苦さを味わう乙女が、大胆な、何よりも喜びにあふれた乙女に変えられたのです。

  神は私たち一人一人にも、このクリスマスに新しい御業をなそうと待機しておられます。戸惑うマリアは私たちの中にもいます。だが神に委ね切っていく時、神が働いて下さり、キリストが宿って下さり、戸惑いも思い煩いも乗り越えられ、委ね切った身の軽さ、喜び、感謝、勇気、信頼が与えられるようになるのです。自分がそうなるのでなく、神がそうして下さるのです。だから感謝なのです。

  祈りましょう。「ベツレヘムの貧しい厩(うまや)で起こったキリストの誕生が、私たちの心と魂においても起こりますように。羊飼いたちが驚きと喜びと愛を持って御子を迎えたように、私たちもイエスを迎えますように。3人の博士たちが星に導かれ御子のおられる所へと勇気を持って向かったように、私たちも星に導かれ勇気を持って新しい年を迎え信仰の出発をすることができますように。どんな困難と試練が待ち受けていても進み、博士たちが誰も見向きもしない馬小屋の飼い葉桶に寝かされている御子を見つけたように、私たちも神からの贈り物を日々の生活の中で見つけることができますように。日本の国が神の愛で満たされる、お金で満たされること以上に心の温かい愛の国になれますように。それが隅々まで届く新しい年を迎えることができますように。…」

     (完)

                                             2014年12月24日



                                             板橋大山教会 上垣 勝



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