バグダッドに残った牧師さん


                  ギリシャからテゼに来たAさん。イコンに触って祈るのだそうです。
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                                                     二人の祈り (上)
                                                     ルカ18章9-14節



                              (1)
  先週の所には、どんなことがあっても気を落とさず、執拗に祈りなさいとありました。祈りの持続です。今日の所では、祈りの別の側面として、謙虚であれと語っています。祈りの熱心さ、執拗さと共に、今日の所は、低き心をもって祈りなさいと語ります。

  まず9節に、「自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下(みくだ)している人々に対しても、イエスは次のたとえを話された」とあります。

  「自分は正しい人間だとうぬぼれて」とある言葉は、英訳聖書では、upright という言葉で訳されているのがあります。ピアノにはグランド・ピアノと共に、学校などでよく見かける直立したアップライト・ピアノがあります。upright とは「上に、真っ直ぐ」ということですが、背中を真っ直ぐ伸ばすこと。背筋をシャキっと伸ばして、反り返ることです。

  もちろん姿勢がいいのは良いことです。猫背では肺も内臓も圧迫されていけません。しかし背筋をまっすぐ伸ばし、反り返って、「他人を見下している人々」となると問題は別でしょう。

  「他人を…」とあるのは、元の言葉では、他の全ての人を見下しているという意味です。誰も尊敬しない。誰にも批判的で、冷たい目で見る。そこにある問題はお分かりでしょう。愛がないのです。こう言うのも、青年時代、私には愛がなかったからです。最も必要なものを欠いている。

  今、世界でイスラムの問題が大きくなっています。ただイスラムの難しい問題がある時に、火に油を注ぐあり方は決して賢明ではない。暫く前に、アメリカのどんな種類の教会の牧師か知りませんが、特殊な教会のようですが、コーランを人前で燃やすという酷いことをしました。世界の人は、そこに、「自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下」すという態度を見たのではなかったかと思います。

  最近、イラクバグダッドにたった一箇所残る英国・聖公会で、暫く前まで働いていたキャノン・ホワイトという牧師が、短期帰国して語っていましたが、「イスラム教徒の大半は私たちの友達だ」と言うのです。(インディペンデント紙)。しかし、いわゆる「イスラム国」を名乗る戦闘集団は、彼が働くバグダッドでも、大人・子どもの区別なくイスラムへの改宗を迫って、改宗しないと首をはねるという恐るべきことをするそうで、多くの人が恐れてイスラムに改宗したそうです。ただ、中に断固改宗しない大人や子供もいて、子供たちが何人も首をはねられていると報告していました。

  彼自身も暫く前に銃撃されて拉致され、処刑前に救出された人です。軟禁された部屋には、切断後間もない人間の指や何かが無造作に転がっていたと言います。

  彼はそういうおどろおどろしい経験をしながらも、イスラムの大半は友好的である。だから、彼らの聖なる書であるコーランを焼くなどという極端なことで刺激しないこと。火に油を注がないこと。友好的な人たちと手を結び、状況を改善するのが最も賢明なことですと語っていました。

  彼は47才ですが、進行性筋萎縮の難病を抱えながら、ですからやがて立てなくなり、座れなくなり、動けなくなり、手が動かなくなり、瞬きできなくなり、話せなくなり、最後に心臓を覆う筋肉が活動をやめるでしょうが、今も現役で勇敢にバグダッドの教会に仕える牧師で、大変心打たれます。ただ、今は身に危険が迫り、一旦別の国に避難したそうです。ちなみに、20年前バグダッドに140万人いたクリスチャンは、今30万人に激減したそうです。

  今申し上げたいのは、「自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下す。」こういう愛のない態度が平和を壊していくということです。世界の平和は、自分の正しさを固執し、傲慢になり、人を見下げる態度によって破壊される。だがそういう生き方を転換することによって平和が築き上げられること。平和な関係を作り出すには、国際間においても、個人的関係においても、ふんぞり返ったり、冷たく見下げたりしないこと。愛を欠かないことが非常に重要だということです。日本と中国や韓国とのあり方でも考えなければならない点です。イエスは山上で8種類の幸いな人を語られましたが、ここで平和を作り出す幸いな人について語っておられると言ってもいいでしょう。

  付け加えますと、キャノンさんはこんなことも話しています。ある父親は、キリスト教からイスラムに改宗しなければ、お前の子供らを皆殺しにすると脅迫されて、藁をも掴む思いで改宗すると答えたのです。だが幾日か経ち、彼は涙ながらに電話をして来て、「牧師さん、私は改宗すると言ってしまいました。こんな自分はもうイエスから愛されないのでしょうか」と尋ねたのです。キャノンさんは間髪を入れず、「とんでもない、イエスは今も君を愛しておられる。今後もずっと君を愛し続けて行かれるよ」と答えたそうです。遠藤周作の「沈黙」のテーマが、現在イラクで起こっているようです。

  首を落とされた4人の子供は皆、15才以下で、彼らは、「いいえ。僕らはイエス様を愛します。今までずっとイエス様を愛して来ました。これからもずっと従います。イエス様はいつも僕らと共にいて下さるでしょう」と語ったそうです。

  それを聞いても武装集団は「改宗すると言え」と強く迫りました。しかし子供らは、「いいえ、できません」と答えた。そこで首をはねられたのです。


          (つづく)

                                             2014年12月14日



                                             板橋大山教会 上垣 勝



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