重い皮膚病か「らい病」か


         脱皮のはじめは抜け殻に捕まって体も羽も真っ白。これはやや色がついてきたところです。
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                                                 神を賛美したサマリア人 (上)
                                                 
                                                 ルカ17章11-19節


                              (1)
  「イエスエルサレムへ上る途中、サマリアガリラヤの間を通られた」とあります。イエスは弟子たちと、普通は決して通らない田舎のさびれたコースを、町々村々に福音を宣べ伝えながらエルサレムに上られたのでしょう。

  東京―名古屋間をリニア中央新幹線は40分で行けるようになるそうです。ただそれは本当にいいことなのか疑問です。人生は時間をかけることで、熟したり、成長したり、味が増したりします。速いということが、人生と社会の味を深めることができるのかです。今より一層、せかせかした社会と人生になりはすまいかと恐れます。

  イエスは、サマリアガリラヤの間、二つの国のボーダーライン国境線を越えて、すなわち僻地伝道をしながら、ゆっくりとエルサレムに向かっておられたということでしょう。

  現代では、国境に国境警備隊がいて検問があります。列車に乗ると、国境付近の車中でパスポートを調べに来ます。ロシア軍がウクライナに侵入した訳で、微妙な関係でウクライナ軍は発砲していませんが当然警告が発せられました。大昔は、紛争地を除けば、国境はそれほど厳重でありませんでしたから、イエスの一行は自由に往来できたのです。

  「ある村に入ると、重い皮膚病を患っている10人の人が出迎え、遠くの方に立ち止まったまま、声を張り上げて、『イエスさま、先生、どうか、わたしたちを憐れんでください』と言った」と言うのです。

  「重い皮膚病」とありますが、前の口語訳聖書では「らい病」となっていました。新共同訳聖書が出された当初は、「らい病」でしたが、途中、時代の変化で「らい病」という言葉は差別用語と言われるようになり、今の新共同訳聖書では「重い皮膚病」と改められたのです。

  当時の「らい病」には、「らい病」だけでなく、「らい」でない重い皮膚病が含まれていたので、「重い皮膚病」に変更することにしたのです。

  しかし、今から考えると、「重い皮膚病」にすることによって、どんな病気か、意味不明になり、緊急性が失われたのは残念です。それを考えて、英語訳では、「非常に毒性が強く、伝染性の強い重大な皮膚病」と言うような意味に訳しているものもあります。単なる重い皮膚病でないと気づいてもらうためでしょう。

  元のギリシャ語は、レプラ、レプロス。ズバリ英語の「らい病」の起源になる言葉が使われています。

  いずれにせよ、ギリシャ語に基づいて、聖書はほぼ2千年にわたって、イエスは「重い皮膚病」でなく「らい病」を癒されたとして来たのであって、もしも「らい病」でなければ、救らい運動はキリスト教の早い時代から起きはしなかったでしょう。「らい病」、ハンセン病を病み、悲惨な状況に置かれた人たちへのイエスの熱い愛が、歴史の中で救ライ活動を進める原動力にも、推進力にもなったのです。

  いずれにしろ、この村にお入りになると、「重い皮膚病を患っている10人の人」が出迎えたのです。イエスの噂は国境の村まで届いていたのでしょう。10人は主にユダヤ人でしょうが、その中にサマリア人がいたのです。

  普通はユダヤ人とサマリア人犬猿の仲で、決して交わりません。口もききませんし、一緒に住むなどというのは論外です。それほど仲が悪かった。だが、重い皮膚病を患った彼らは、やはりハンセン病だと思いますが、民族の違いや国の隔てを超え、宗教の違いを飛び越えて、助け合い、支え合ってひっそりと生きていたのです。

  本来、健康や福祉の問題は民族の壁を越えています。災害もそうでしょう。しかし民族主義国家主義思想が強まると、色々な口実を設けて、異質な人間を憎悪し、排斥する。ヘイト・スピーチや村八分が起こります。政府がそれを断固として止めないなら、したい放題になります。

  しかし、イエスはあの時代に、既に民族や国家、言葉や宗教の壁を超えて、神の愛を説き行なっておられました。

          (つづく)

                                       2014年8月31日


                                       板橋大山教会 上垣 勝



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