国境線を超えて


                        チェルマットのエーデルワイス
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                                                     金持ちとラザロ (下)
                                                     ルカ16章19-31節



                              (3)
  金持ちの話に戻りますが、彼は陰府(よみ)の苦しみを訴えていますが、彼はラザロを愛さなかった自分の罪については一言も語りません。むしろ、先程も言いましたように、彼は死後もラザロを召使のように扱おうとします。

  イエスが語られたこの譬えは、近くにいる隣人を愛さないことの問題です。お金は沢山持って貯めているが、それを愛のために使おうとしない。いや、隣人のことなど何も考えず、困っている人が側に来ても何も関心を示さず、それを風景の一つとして見ているに過ぎない問題性です。自分の心を喜ばせるためにのみ生きている。家族の狭い愛だけを考えている。

  しかしモーセ預言者は愛についても説きました。十戒の戒めは、神を愛し、隣人を愛することに尽きます。この隣人愛の戒めに聞かないなら、たとえ死者のうちから蘇る者があっても聞かないだろうとアブラハムは言ったというのです。

  テゼのブラザー・アロイスさんが、1週間ほど前に青年たちに語ったことをご紹介します。この間、メキシコにおいてテゼの主催の大きな集まりがあり、行って来られたそうです。

  メキシコは今、困難な状況を経験していますが、多くのキリスト者は信仰を持ってそれに耐え抜いているそうです。アロイスさんは、町の富裕層たちが暮らす地域の一角に、ダンボール箱で作った小さな家に住む40人ほどの貧しい人たちを訪ねたそうです。ある青年はそこに12年ほど住んでいます。10才の少年もいました。ダンボールの家で出産を控える若い女性もいました。

  一軒の家に背中を丸くして入れてもらうと、正面にテレビがあり、隅に十字架があったそうです。貧困にやっと耐えながら、最善を尽くして生きているそうです。この小さな家で、テゼの歌を歌ったそうです。「恐れるな、煩うな、主は共におられる、満たされるあなたは、神によって」という歌です。帰りに、夕べの集いに来ませんかと誘うと、まさか来れるとは思わなかったが、誘った人たち全員が来たそうです。

  フランスのテゼに帰って、全世界から来ている青年たちに以上のことを報告して、次のように語っていました。「もちろん一度の訪問で彼らの貧困の状況を変えられはしません。そんなことは、社会の巨大な問題に対し、良心を紛らわすための免罪符だという問いがあります。…だが、小さな希望の炎を灯し続けることができるのではないかと思います。…私たちは苦しみの中で、癒しや物質的な助けを期待します。だがそれと同時に、耳を傾け、理解してくれる人の心を求めています。それがあると、苦しみの中においても、希望を見出すことができ、時には深い安堵を与えられるのです。」

  言葉を換えて言えば、私たちが今日の、身近にいるラザロを訪ねることです。貧しさや病気や悩みの炎で苦しめられ、犬にも舐められている人を訪ねて共に祈ることです。そういう人が近くにいるのに見過ごしにしていませんかということです。

  アロイスさんは最後に、青年たちに、「キリストは、近くにまた遠くにある国境線を超え、隔てを超えて行くようにと、私たちを招かれているのです」と訴えていました。

  イエス・キリストはご自分から国境線を超えて行かれました。国境線だけでなく、あたゆる敵意の隔ての壁を越え行かれました。それは天と地を超えてこの世に来られ、神であることを固守しないで、僕として人に仕えられたことに愛が映し出されています。そして、私たちも国境線を超え、隔ての壁を越えて行くように招かれているという事です。話し合っても断絶がある。だがその断絶の壁を、こちらから超えて行こうということでしょう。イエスはこの譬えを通して私たちの社会が、人生が新しくされる道を示しておられます。

        (完)

                                       2014年7月20日



                                       板橋大山教会 上垣 勝



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