犬からも舐(な)められた暮らし


                          昨夜の石神井川の奔流            
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                                                     金持ちとラザロ (上)
                                                     ルカ16章19-31節


                              (序)
  この譬えは何をテーマにしているのでしょうか。イエスが語られた、陰府に落ちた金持ちと天上のアブラハムの譬えには、因果応報や勧善懲悪の教えと取られかねないものが混じっています。しかし因果応報として読むと、イエスの福音はどこにあるのかと考え込んでしまいます。

  私たちがそう読みがちなのは、この譬えと、14節以下の「金に執着するファリサイ派の人々」に対するイエスの言葉が、段落で切り離されているからです。更に、その前の13節、「どんな召し使いも2人の主人に仕えることはできない。…あなた方は神と富とに仕えることはできない」と言いうイエスの言葉とも離されています。そのために今日のイエスの譬えが一層分かりづらくなっています。

  簡単に言えば、この譬えは金に執着するファリサイ人に語られたのであり、「あなた方は神と富とに仕えることはできない」ということの譬えとして語られたと言っていいでしょう。16章全体は、表面には現れませんが、「失った羊の譬え」、「なくした銀貨の譬え」、「放蕩息子の譬え」が記される15章に続いて、隣人愛がテーマです。隣人愛です。因果応報ではありません。アブラハムが出てくるのは、ユダヤ教の因果応報の考えや律法の限界を語るためであり、同時に十戒にある隣人愛の精神を明らかにするためです。

                              (1)
  さて、「ある金持ちがいた。いつも紫の衣や柔らかい麻布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮らしていた」とイエスは譬えを語り始められました。

  「紫の衣」というのは紫貝で染めた特別高価な衣です。目の覚めるような深紅、ガーネットのような美しい色合いです。「柔らかい麻布」というのは最高の亜麻糸で織った、柔らかで特別肌触りの良い布です。今の値段に換算すれば1着だけで100万円以上するようです。彼はそれを「いつも」、普段着に着ていたというのです。ため息が出ますね。

  前にいた教会幼稚園では、3、4歳児に1枚2、3千円もするバーバリーのハンカチを持たせて来る親もありました。お中元にもらったものではありません。わざわざ子供用に買ったものです。行く所に行けばそんな暮らしを3、4才頃からさせている家が、無論東京には沢山ある筈です。本当に社会を考えさせられます。

  そして、金持ちは「毎日贅沢に遊び暮らしていた。」お抱え料理人がいて客を招いて毎日宴会を開き、最高の料理をふんだんに出す生活です。仕事をせず遊び暮らしていた。貴族でしょうか。

  ところが、「この金持ちの門前に、ラザロというできものだらけの貧しい人が横たわり、 その食卓から落ちる物で腹を満たしたいものだと思っていた。犬もやって来ては、そのできものをなめた。」

  彼は、金持ちの食卓から落ちるもの。捨てられる残飯で飢えをしのぎたいと思っていた。豚のように、です。残飯ですから酸っぱく腐って饐(す)えた物や、当たるような食べ物も含んでいます。一般家庭のゴミ箱をあさる日々もあったでしょう。そのため毒素が体に廻って、クサやできものだらけです。

  そのおできを、野良犬たちが来て舐めっている。犬は複数形です。人からも犬からも「舐められた」暮らしであり、見下げられた赤貧の人生です。

  「ラザロ」とは、「神は助けられる」の意味です。だがその名に反して、体中、毒素がいっぱいで、貧しさと病気に苦しみながら生きている。神の助けが来ない。

  金持ちは、こんな病気になったことも苦しんだこともないでしょう。路上にラザロがいても素知らぬ顔。てんで無関心です。苦しむ人間の人生の重い事実などどうでもよく、自分とは無関係な風景の一部に過ぎない。ただ自分の門前にいれば、野良犬のようにシッシと誰かに棒で追い払わせる彼です。

        (つづく)

                                       2014年7月20日



                                       板橋大山教会 上垣 勝



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