権力と繁栄への誘い


                        Le Tour de France
                               ・




                                                  権力と繁栄への誘い (下)
                                                  ルカ4章1-13節


                             (3)
  このイエスの言葉に、悪魔が本性を表しました。それが5節以下です。「悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。そして悪魔は言った。『この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。』」

  悪魔を拝みさえすれば、地上の一切の権力と繁栄を授けよう。あなたは世界のトップになる。Japan as NO.1。世界一の経済大国、どこからも戦争を仕掛けられない世界一強い国、「世界一の…」ということへの誘惑です。

  その時、「ただ私を拝みさえすれば」と悪魔は囁(ささや)くのです。「私を拝みさえすれば」と、囁きは密(ひそ)かです。この種のトップを目指す時、人間は非常に危険なものに手を出しかねません。

  世界一の経済大国、世界一強い国。今述べた世界一という思想は危険なものを孕(はら)んでいます。一切の権力と繁栄そして名誉を手に入れたい。そのために、こっそり悪魔と手を組んでもいい……そういう思いへドッと傾く可能性が、日本社会に無きにしもあらず、です。一切の権力と繁栄がある方(ほう)が、世界で優位に立てるし、馬鹿にされないし、指導できるし、尊敬されるという考えです。そこまで行っているかどうか分かりませんが、それにかなり近づいている可能性があります。そして実際の社会では、誰も悪魔と手を組むと感じていないのです。

  するとイエスは、「『あなたの神である主を拝み、ただ主に仕えよ』と書いてある」と語って、悪魔を撃退されました。これは真面目に聞くべき言葉です。これは警告であるとともに、ここに私たちを喜びに導く道があります。

  私たちに命をお与え下さった方、すなわち私たちの命の根源、生命の源である方を知り、その方との関係を回復して、そのお方のみを神として生きることです。イエスは、人間がすべての人間の命の根源である方との関係を回復するために、この世に来られたのです。私たちが、自分の意志で生まれたのでなく、このお方との関係から造られ、50年、60年、70年、80年、90年、100年、その方によって生かされ、やがてその方へと帰って行きます。この命の根源である方を、イエスを通して知って関係を回復する。私たちの由来を知ることです。その時、自分の生きている意味を、人生の真理を知ります。イエスはこうして、このお方のみを拝み、このお方のみに仕えなさいと言われたのです。

  人間は経済的繁栄や権力を得るために存在しているのではありません。モノのためではない。もっと大いなるお方、根本的な方との関係で生きていますし、そのお方に向かって存在しているのです。そのことが分かるまでは、人間は常に悩み、迷い、恐れ、不安になり、心定まることがありません。平安を得ません。

  「あなたの神である主を拝み、ただ主に仕えよ。」2度繰り返して、ただ主のみに仕えるようにと言われたのは、何を拝むか、何に仕えるかによって、人間や社会が高貴にもなるし、堕落もするし、無責任にも、欺きに満ちた社会にもなる重大な事柄だからです。実際、主なる真の神を知らないならば、メルトダウンしている今の状況の中ですら原発の稼働を言いかねない、無責任な人間が生まれるでしょう。そのようなことは、決して日本人を愛することではありません。権力と繁栄を愛していても、人間を愛していません。

  悪魔的なものを礼拝し、仕えるなら、一切の権力と繁栄を手にすることができるかも知れません。それに魅力を感じる人々もいます。だが、その時は必ず人が反抗しないように、権力を持って人々を抑圧し、支配していくでしょう。その権力と繁栄を守るために、「よらしむべし、知らしむべからず」と、人民はただ従わせればよい。理由や意図を説明する必要はないという考えにどうしてもなるでしょう。

  それは時計の針を70年も、80年も、100年も前に戻すことです。

  しかし、「あなたの神である主を拝み、ただ主に仕えよ。」ここからこそ、真理の神に生かされる人間の自由と喜びが生まれます。神の前での人間の尊厳が生み出され、人々の連帯と和解、そして未来を共に切り拓いて行く歩みが生まれるでしょう。

  私たちは今日、権力と繁栄への誘いという第2の誘惑の前でどう生きるのか。日本人として、信仰者としてどう生きるかが問われているでしょう。私たちはあくまでイエスから学びたいと思います。

          (完)

                                       2014年7月13日

                                       板橋大山教会 上垣 勝



  ホームページは、 http://www.geocities.jp/itabashioyama_ch/

  教会への道順は http://www.geocities.jp/itabashioyama_ch/img/ItabashiOyamaChurchMap.gif



                               ・