不安が吸い取られる
Giacometti。 チューリッヒ市立美術館で。
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すべての人の贖い （中）
Ⅰテモテ２章５－７節
（２）
さて、贖（あがな）いについて聖書はあちこちで語っていますが、これはキリスト教の最も重要な中心思想です。本質はここにあります。イザヤ書４３章を見ますと、「恐れるな、私はあなたを贖った。あなたは私のもの」とありますが、キリストは、「すべての人の贖いとして御自身を献げられた」とは、すべての人に対して、「恐れるな。私はあなたを贖った。あなたは私のものだ」と言われたという事です。
「贖う」とは、代価を払って買い戻すこと。喜びの少ない、囚われの状態から救い出すこと、解放することです。キリストは神の独り子です。その独り子キリストを私たちの罪の代価として支払って、罪の世から、神の愛のご支配のもとへ買い戻し、自由へと解放して下さったということです。言葉を変えて言えば、神との和解を作り出し、信じる者を義として下さったという事です。
ですから、「恐れるな、私はあなたを贖った。あなたは私のもの」とは、もはや自分の力で自分を贖ったり、救い出したり、義とされようと頑張ったりする必要はなく、贖って下さった神に、恐れず委ねるだけでいいのです。信じ、任せることによって、私たちの存在が受け入れられ、義とされるのです。私の存在自体が義とされ、私自体が義とされるのです。これは、母親がしばらくどこかに行ったので、不安のあまり泣いている子どもを、お母さんが戻ってきて抱きしめて、「お母さんはもうどこにも行かないわ。もう安心だよ。あなたは私の子どもだもの」と言い聞かせるようなものです。抱きしめられて、どこにも行かないことが本当に分かれば、必ず泣き止むでしょう。
「恐れるな、私はあなたを贖った。あなたは私のもの」と語られるお方に、安心して、一部でなく、一切をお任せすればいいのです。「案ずるな。あなた既に私のものだ」と言って下さっているのですから、自分の力で安心を作り出そうとする必要はない。信仰は自我の業ではないのです。神が為して下さる神の業です。池で溺れそうになっている人が、自分を助けようとして自分の手で自分の髪の毛を引っ張っても助けられっこありません。そりゃ無茶です。誰か別の人に引っ張りあげられなければならない。それと同じで、信仰の救いは自我の業でなく、神が為して下さる神の業です。
しかし、「恐れるな、私はあなたを贖った。あなたは私のもの」と言われていますが、もしそれを疑って、自分は贖われていないと考え、神が語られることを信じない。すると、そこから不安が忍び込んで来ます。最初はごく小さな穴ですが、次第に大きくなって不安が押し寄せて来ます。だから最初の明確な一歩が大切です。これは洗礼を受けることにもつながります。ごくごく小さな、見えない程の一歩でいい。しかし明確な一歩であるべきです。
別の面から言えば、私たちがキリストの贖いに与り、神に義とされる時に、不安が解消され、平和がやって来ます。贖うことによって、キリストは不安を吸い取って下さるのです。こぼれたインクを海綿で吸い取るように、キリストは私たちの罪も過ちも不安もマイナスも吸い取って、吸い取るとご自分は汚れますが、ご自分のことは考えず、神の前に新しい私を備えて下さるのです。
神に義とされるために、何をしようか、何を行おうか、どういう人になろうかと、思い煩う必要はありません。立派な業、功績。律法を行うことは不要です。ただ、イエス・キリストを信じる信仰によって義とされるのです。ただキリストへの誠だけでいい。信頼だけでいい。何かをすることでなく、単純に、キリストが私の罪のために死んで下さったと信じさえすればいい。恐れず、「イエスは私たちの主であり、私の主である」と告白して、自分を一切、主に委ねればいいのです。
義とされる手前で、あれをしなければならぬ、これをしなければならぬと齷齪（あくせく）するのでなく、一切を委ねる。委ね切るだけ。すると万事を益として下さり、平穏で落ち着いた生活が自ずと生じて来ます。人生はガタガタする煩わしいことで満ちています。しかし、煩わしいことを一つ一つ落ち着いて行う事が人生成功の鍵です。
（つづく）
２０１４年２月２３日
板橋大山教会 上垣 勝
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