人生を甘く見るな


                   グロスミュンスターの塔上から市役所と駅方面を見ました




                                            イエスの弟子 (中)
                                            ルカ14章28-33節


                              (2)
  イエスは2つの譬えを語って、「だから、同じように、自分の持ち物を一切捨てないならば、あなたがたのだれ一人としてわたしの弟子ではありえない」と言われました。これが今日の中心箇所です。

  「自分の持ち物を一切捨てないならば、だれ一人としてわたしの弟子ではありえない」とは、27節で、「自分の十字架を背負ってついて来る者でなければ、誰であれ、私の弟子ではありえない」と語られたこと、また26節で、「誰かが私の所に来るとしても、父母や親族、そして自分の命であろうとも、これを憎まないなら、私の弟子ではあり得ない」と言われたこととほぼ同じ意味です。

  なぜそんな犠牲を払って従わなければ弟子になれないのか。それは、先程申しましたように、イエスに従う信仰は、塔を建てたり、戦いをしたりするのに類似し大事業であるからです。腰を据え、座して考え、信仰の決断をして生きる。決断したら、私の全て、一切を神に委ねるのであるということです。

  一切を賭けるのは、神が私たちを救うために、御子をこの世に送り、十字架につけ、そこに一切を賭けて、信じる者が一人も滅びないように、救いの道を作って下さったからです。そこまで私を愛してくださった。私が真剣に愛されているからです。

  中途半端な決断や一時的な思いつきでは、途中で失敗し、敗北しかねないからです。イエスは誤魔化しなしに真実を言われるのです。

  とは言っても、イエスが言われるのは、文字通り一切を捨てよということではありません。ホームレスの人はこの寒空の下、本当に大変だと思います。ホームレスでも下着や服は必要です。布団も必要です。すっかり捨てて丸裸になってどうして生きれるでしょう。ですから、これは杓子定規のことでなく、それへの執着を捨てよということです。自分の所有物から自由になり、自分の欲望から自由になるということでしょう。

  九州のある町に住んでいる知人の元彼(もとかれ)、元彼というのは離婚した元の旦那さんですが、今年の夏は猛暑でしたが、ある街のマンションで遺体で発見されました。数ヶ月も、誰も気付かなかったそうです。誰も訪ねる人がいなかったのです。ご近所から、耐えられない異臭がするという苦情が出て、殆ど行き来なかった娘や息子たちが行って鍵を開けると、指紋も取れないほど腐乱していたそうです。

  かなり前に女性と駆け落ちしていましたので、既に知人とは離婚していますが、元彼は立派な医者でした。私は、医者であっても孤独死という最期を迎えることがあることに、ショックを受けました。当たり前かも知れませんが、この事件は誰も彼も全て同じなのだと、不思議なほど強く思わされたのです。

  知人は、多くの人から慕われ尊敬される素晴らしい医者ですから、元旦那であったこの人もかなりの医療の実力を持ち、地位を築いた人だったに違いないと思います。だが、駆け落ちした女性は今どうなったか。その人との間に生まれた息子たちは今どこで、どう暮らしているかすら分からないのだそうです。

  「自分の持ち物を一切捨てて」とありましたが、欲望や執着や自分を捨て切れなかったのでしょうか。知的には極めて高く、才能は普通の人以上に持っていましたが、自分のしたい放題に生きて、こういう結果になったのでしょうか。

  退職後は毎日ゴルフ生活だったようです。傍目にはさぞ羨ましがられていたでしょう。だが、ゴルフの友人も、趣味の友人も、家族も、誰も親身になって案じる者がひとりもなかった。外と違って、実に内側はお寒い状況だった。どうして腰を据えて人生を計算しなかったのか。どうして腰を据えて、人間というものを考えなかったのか。可愛そうだと思います。

  医者は患者の病を治療し、できるだけ寿命を伸ばしてあげたいと思うでしょう。この人もそうして来たでしょう。旧約聖書のコヘレトの言葉はこう言います。「たとえ、千年の長寿を2度繰り返したとしても、幸福でなかったなら、何になろう。」考えさせられる言葉です。

  イエスは「一切を捨てて」従いなさいと言われました。片手間の信仰や服従なら、信仰の人生という塔は完成しないということです。人生を甘く見るなということでもあるでしょう。イエスはご自分の全てを差し出されたのです。片手間で十字架につけられたのではありません。

          (つづく)

                                       2013年12月15日


                                       板橋大山教会 上垣 勝



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