イエスの素顔が垣間見れる場所


                   昨日の彫刻の説明文。チューリッヒ国立博物館において。
(スイスの宗教改革はこの地で最も早くに始まりました。宗教改革は、これまでの教会法や伝統でなく、聖書を最高の規範として、そこから物事を考えていこうという運動でした。聖書や真理でなく姑息な手段で人を罠にかける。それは教会が教会でなくなるメルクマールであるということです。)
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                                              愛と法 (中)
                                              ルカ14章1-6節



                              (3)
  イエスの場合は、厳罰に処したいと押し黙る人々の前で立ち上がり、「病人の手を取り、病気をいやしてお帰しになった」のです。法を破って男を癒された。そして彼らに向き直って、「あなたたちの中に、自分の息子か牛が井戸に落ちたら、安息日だからといって、すぐに引き上げてやらない者がいるだろうか」と問われたのです。

  余談ですが、当時イエスアラム語で話しておられました。アラム語で、息子という言葉はベラアです。牛はベイラア。井戸はベーアラです。で、イエスは、「あなたたちの中に、自分のベラアかベイラアが、ベーラアに落ちたら…」とおっしゃったんです。こんなに切羽詰った時にも、ユーモアたっぷりに、語呂合わせでお尋ねになったんです。そこにイエスの人間としての大きさ、成熟度、まことの権威を具えておられる余裕ある姿を感じますね。イエスの素顔が垣間見れる箇所です。

  先程申しましたように一般論としては、安息日に井戸に落ちた場合に助けることができるかどうかには議論がありました。だが一般論でなく、自分の息子や家畜が水のある井戸に落ちたら、誰でも例外なしにすぐ引き上げてやるでしょう。もう待ったなしです。ここに集まったどんな厳格な律法学者もファリサイ派も同じでしょう。

  であれば、目の前にいる水腫(すいしゅ)を患った男を、安息日とはいえ、命の危機から救ってやるのは、理に叶ったことでないかということです。

  安息日は本来、人の為に制定されたものです。安息日には、誰でも仕事を免れ、神を礼拝し賛美できる。しなければならない。また全ての人が体を休め、休息を取ることができるためです。人を縛る為に安息日の律法が定められたのではありません。法でなく、愛こそ律法が定められた理由です。

  安息日に、水腫を患う貧しい男ですが、神の子どもである彼を助けたからといって、どうして法を破ったことになるのか。愛こそ、安息日律法が制定された趣旨であり、その根本なのです。

  たとえ法であっても、この病人の上に神の愛が示されるなら。彼が救われて感謝が生まれ、信仰が起こるなら、それは安息日の法に背くことではない。イエス安息日を破ることも辞されないのです。破っても神に背かれるのではない。先程の牧師も神に背いた訳でも、その教会が神に背いたわけでもない。イエスは、法の厳守なのか、愛の実践なのか。法の盲目的墨守か、福音を生きることか。イエスは命を賭してそれを彼らに語って行かれたのです。

  当時こう考える者は全くの少数者でした。いや、イエスお一人でした。だが安息日や法は人のためにあるのであって、人が安息日や法のためにあるのではないという、今では国際的にキリスト教社会では知れ渡った考えも、当時は異端的な考えでした。

  しかし異端ではありません。これこそ人間を愛される主なる神の意志です。人の尊厳思想はここに生まれたのです。もしキリストが来られず、キリスト教が世界に広まっていなければ、現在も、法は人のためにあるというのでなく、人が法の下にあるとされ、――無論、法の下にありますよ。無法ではない――支配者は巧妙に法で民を縛り、押さえ付け、徹底して従属させるという隷属の社会が今も終わっていなかったでしょう。

                              (4)
  というのは、現在も厳格なイスラム法の下にある人たちは、まさに法に縛られて、それを犯せば人民裁判によって首を撥ねられることすらあります。法をファンダメンタルに超保守的に捉えると、人間は法から自由になれません。

  去年の今頃、ここで皆さんにお話したマララさんが回復し、1年の間に大きく成長して……

        (つづく)


                                        2013年10月13日


                                        板橋大山教会 上垣 勝



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