この夏、スイスで


  カルヴァン時代に新調された1543年の説教壇は今はありません。これは1864年のもの。ジュネーブで。



                                          かすかな新しい兆し(中)
                                          ルカ13章18-21節


                              (3)
  しかし私は、まだイエスの預言はすっかり実現に至っていないと思います。その途上にあると思います。これからまだ変遷を遂げ、キリスト教会自体がキリストによって変えられて行くだろうと思います。本質は不変ですが働きや現れは変わるでしょう。すっかり実現するのは神の国が来た時です。

  外国のことですが、あるキリスト教の知恵遅れの子どもや成人たちの施設のことです。ある時10歳の少女が入って来ました。その時、彼女は手に負えない状態でした。この子は盲目で自閉症だったのです。自閉症だけでなく重複障害。聞くだけで私は涙が出そうになります。それまでこの子は殆ど精神病院で暮らして来ました。10才の子ですよ。ですから一日に何人もスタッフが変わり、何年かすればスタッフが変わるわけで、永続的な安定した人との結びつきを持ったことがありませんでした。精神病院にいて、彼女は苦しみながらやっと生き延びたのです。

  新しく、キリスト教の施設に来たこの子は、最初はこれまで以上に苦しかったようです。未知の人たちの中に来て、以前より大きな不安を抱きました。絶えず泣き喚いていたそうです。衣類を食べたり、排せつ物を壁になすり付けたりしたそうです。絶望の表現でしょう。彼女は施設のスタッフが愛をこめ、自分と一体になり、本当に味方になって受け止めてくれるかを試していたのです。

  だが次第に自分が愛されていると感じるようになり、安心できるようになったのです。しかしまだ対人関係がうまくいかず、脆い所を持っていると書かれていました。(J.バニエ「愛と性の叫び」)

  神の国がどうして「成長してしまった」と言えるでしょう。まだ成長の段階にあります。いや、今やっと芽を出したところかも知れません。

  この夏、フランスのテゼの行き帰りに、スイスの博物館を幾つか訪ねました。そこで見たのはスイスとヨーロッパの歴史であり、キリスト教の歴史でした。

  一つのショックは、チューリッヒ国立博物館で見たキリスト教の歴史でした。特に中世の時代から時間をかけて見ましたが、中でも印象に残ったのは、プロテスタントによる宗教改革とそれに対抗したカトリックの対抗改革。それは宗教と政治が入り乱れ、30年戦争というヨーロッパ中に長く荒れ狂った暗い時代に突入した時の歴史でした。

  30年戦争はプロテスタントカトリック、それに魔女狩りユダヤ人狩りやジプシー狩りなど、憎悪に満ちた恐ろしい時代でした。互いに、あの人はプロテスタントでないか、カトリックでないか、魔女でないか、ユダヤ人でないかと町や村で隣近所が疑い、探り合い、監視し合ったのです。家族の間でも探り合い、衝突したのです。そして密告され、同じキリスト者でありながら火あぶりの刑に処し、また処せられ、隣近所、同じ家族でも火刑に処し、また処せられ、その他の恐ろしい拷問に掛ける恐怖の時代でした。固唾を呑んで展示を見ました。

  キリスト教徒が互いに憎み、戦争したのです。これはキリスト教が最も苦しみ、悩んだ時代で、歴史に汚点を刻印した時代です。

  私はキリスト教の汚点を暴くために言っているのではありません。人類はこれまで、至る所で同様の歴史を辿って来たのです。ただそれを白日のもとに晒していません。残酷がないのは隠されているだけです。旧約聖書はそれを書いています。自分の民族がどんなに深刻な罪を犯してきたか。だが罪の無い民族や国はどこにもありません。

  ところがこの汚点、この罪への鋭い反省がその後のキリスト教世界をゆっくりと変えていきます。「汝の敵を愛せよ。迫害する者のために祈れ」。主に従わず、罪を犯したことへの恐れと慄きからです。「殺すなかれ」に背き、同じクリスチャン同士が疑い合い、殺し合った恐ろしい罪への反省からです。人々は自ら犯した罪と対面し、未だなお忍耐してキリストが十字架について下さっていることを知って涙し、神に赦しを乞い、本心に立ち返って過ちへの深い反省をもって次の時代を作って行きます。

  スイスで学んだのは、人々が神から砕かれ、砕かれることによって神の憐れみを一層深く自覚し、次の新しい時代を切り開く原動力をイエス様から得てきたという事です。

  この夏は本当に良い研修の機会を与えられ感謝しています。

                              (4)
  スイスには「人間の混乱と神の摂理」という言葉があります。……

        (つづく)

                                       2013年9月8日


                                        板橋大山教会 上垣 勝



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