共に心を天に向けましょう


フランス革命で全く破壊されたブルゴーニュのクリューニー修道院は中世博物館にその面影をとどめていました。
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                                         小さな群れよ、恐れるな (下)
                                         ルカ12章32-34節


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  ラルシュ共同体を始めたジャン・バニエさんの「愛と性の叫び」を読んでいます。バニエさんは、元はカナダ海軍の航空母艦に乗る軍人で、父はカナダ総督でした。やがて海軍を去ってトロント大学で教えますが、トマ・フィリップ神父という人と出会い、教授をやめて精神障害を持つ人たちと共同生活を始めます。

  カナダのエリート大学生たちと知的な世界で生きていたので、この共同生活は驚きと戸惑いの日々であったようです。学生たちはバニエ教授の頭から得られる知識を求めて来るが、障害を持つ人たちは人との関わりを必死で求め、友情と愛のある心の交わりを第一とする生活に飢えていたというのです。

  やがて、彼らの持つ深い苦しみに触れていきます。真の絆を求め、共に家族として一緒に住む喜びを求める、彼らの内なる叫びに気づいて行ったのです。「彼らが私の人間性を目覚めさせてくれた」と書いています。また、「そのホームが抱える悩みは大きすぎて到底手に負えないと思えた」とも告白しています。なぜかと言うと、そのホームには「同性愛を志向する人、自慰に耽る人、村の中を裸で歩く露出症の人までいた」からです。そのような魂は根本的には、その存在の底でいったい何を求め、何を探しているのかということです。

  そうした中でバニエさんがさらに気づいて行きます。それは、「苦しみ、傷つき、疎んじられて来た心や暴力の叫びと、歪んだ性との間に深い関わりがあること」でした。愛を求める心の叫びと暴力による叫び、そこに深い関係があると発見していった。しかもこれは普通の人々もほぼ同じだということの発見でもありました。それで、ホームを「苦しむ人々が心に平安を取り戻す場にする」ように努めようとして、「少しずつホームを生活の場、優しさと友情の場、我が家としていく努力を積んで行き」ました。すると不思議にも暴力は減少したというのです。それと共に自制力のきかなかった性的行為もかなり収まって行ったのです。そして、「彼らに人間らしい表情が戻り始めた」(J.バニエ)のです。

  長くなるので、バニエさんの紹介はこれでやめますが、彼は心の芯の部分を天に向けて、常に新しくそこから慰めと力とを汲みながら障害者の心に分け入って、なぜ愛と性の叫びが生まれるのかを探求して行かれたのです。天に富を積む。そのような姿勢が、ラルシュという素晴らしい働きになっていると思いました。

  繰り返しますと、心の芯を天に置く、それが歪んだ生活、歪んだ生き方をしている人たちに仕え、彼らの友になり、苦しむ人々が心に平安を取り戻す場になるようにと献身する原動力になっているということです。

  「小さな群れよ、恐るな。」私たちは今日もここに、一つの群れとなって集っていますが、生活の場でそれぞれが接している事柄は違います。しかし誰もが、多少なりとも恐れや不安をもって生活しているでしょう。だがこの大山教会に信仰者として求道者として来ておられる小さな群れが、共に心を天に向け、人格の芯の部分を神に向けて生きていきたいと思います。

  決して恐れる必要はないのです。心の芯を天に向け、そこに宝を積んで生きていくなら、必ず人知では到底測り知れない神の力が、私たちの心と思いを取り囲み、守って下さるのです。

       (完)

                                          2013年4月14日



                                          板橋大山教会 上垣 勝


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