欲望を全開する政策


                     「貴婦人と一角獣」の視覚のタペストリー。
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                                          思い煩いを断つもの (上)
                                          ルカ12章22-31節

                              (序)
  イエスは弟子たちに、「だから、言っておく。命のことで何を食べようか、体のことで何を着ようかと思い悩むな。命は食べ物よりも大切であり、体は衣服よりも大切だ。烏のことを考えてみなさい。…」とおっしゃいました。

  「だから、言っておく」とは、直前に話された「愚かな金持ちの譬え」を受けています。愚かな金持ちは、有り余るほどの穀物と財産を持ちながら、更に多くを持とうとする貪欲な男でした。だが神は、「今夜、お前の命は取られる」と言われたというのです。

  その話を受けてイエスは、「だから、言っておく」と弟子たちにおっしゃり、「命のことで何を食べようか、体のことで何を着ようかと思い悩むな。命は食べ物よりも大切であり、体は衣服よりも大切だ。烏のことを考えてみなさい」と話されたのです。

  これには異論を唱える人があるかも知れません。というのは、命は食物より大切だからこそ、何を食べればいいか、何が体に良いのか、食物のことで思い煩うのが現代人だからです。

  主婦の方は料理番組をよくご覧になるのではないですか。今の日本では、何を食べるかだけでなく、いかに料理して食べるか。塩分と脂肪分を減らしいかにおいしい料理を作るか悩む時代でしょう。いかに肥満を減らすかとか。医療費を減らすために、それらが国の方針になっています。

  それにしてもテレビは、もっと美味しいもの。もっと美しいもの。もっと味わったことがない珍しいものと欲望追求の花ざかりです。

  衣服もほぼ同じです。体は衣服より大切だから、だから何を着ようかと衣服のことで思い煩う。Aちゃんなどは幼稚園の頃から、ひらひらの服がいいとか重ね着ルックが素敵とかいって、既に欲望の蕾(つぼみ)を沢山つけています。先週、九州から従姉妹が来て、ディズニーランドに行きました。ジッちゃん、バッちゃんがお金を出してくれたというので、昨日郵便屋さんの手で私たちに、「ありがとうございました」の素敵なお手紙が届けられました。その最後は、「ジェット・コースターも乗りたかったです」と、ちゃっかり更なるおねだりを書いていました。

  5世紀頃、今のトルコのアンカラ近くにネイロスというキリスト者がいたそうで、こんな意味のことを書いています。古代ですが物質的に爛熟した時代で、人々はどんどん豊かさを追求したようです。

  「自然な生活の一線を超えると、パンにいい香りがするものを塗って食べたくなる。また健康的な適量のブドウ酒では飽き足らず、もっといい味覚の上等のブドウ酒を飲みたくなる。衣類も最低限のものから、まっ白な羊毛で花模様の布に織るようになる。更に進んで麻と羊毛の混紡にする。次は絹に魅せられてその虜になる。次は、絹に小鳥や花や狩りの場面などの刺繍をした服を欲しがるようになる。食器も、宴会に銀や金の容れ物を使うようになり、更に進み、ペットの餌の器にも金銀の食器を使うようになる。」

  これは1600年前のトルコでなく、今の日本のことだと言っても誰も疑わないでしょう。要するにネイロスは、欲望に限りがないことを指摘したのです。今、日本人が直面しているのは欲望のコントロールでなく、欲望の発散でしょう。一度豊かさの味をしめれば、貧しくなれないという現実です。これは喜劇でしょうか、悲劇でしょうか。いずれ人類はこのことに直面するでしょう。資源に限りがあり人口は増える一方ですから、必ずその時が来ます。

  欲望を全開するのか。それとも上手にコントロールして長く持続可能な社会を作るのか。今の政権は欲望全開の政策を突き進んでいるように見えますから、この先が思いやられます。

         (つづく)

                                          2013年4月7日


                                          板橋大山教会 上垣 勝


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