働きたくない者は食べてはならぬ


        見るだけで今晩は一杯引っ掛けようと思う人もあるでしょう。(ウイーン郊外のホイリゲで)
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                                        愛する兄弟へのアドバイス (中)
                                        Ⅱテサロニケ3章6-15節


                              (2)
  さて、今日の聖書に、「兄弟たち、わたしたちは、わたしたちの主イエス・キリストの名によって命じます。怠惰な生活をして、わたしたちから受けた教えに従わないでいるすべての兄弟を避けなさい」とありました。また、「聞くところによると、あなたがたの中には怠惰な生活をし、少しも働かず、余計なことをしている者がいるということです」と、テサロニケ教会から伝え聞いたことが記されています。

  今日の全体は、聖書の他の箇所ではあまり見られない「怠惰な生活」が取り上げられています。しかも、普通パウロはキリストの福音を語って、次に兄弟愛を勧め、互いに愛し合いなさい、尊敬し合いなさい、互いに平和に過ごしなさいなどと勧めて、その関連で「怠惰な生活」などについて語ることがありますが、今日の箇所ではいきなり「怠惰な生活」への戒めが言われますから、これは特殊なケースです。

  背景に、テサロニケ教会に入って来た特殊な人たちがいたからです。彼らは間違った終末論に生きていて、世の終末は近いと説いて、労働をしたり、結婚をしたり、貯蓄をしたり、真面目に働いても無駄だと考え、「怠惰な生活」をして、他の人にもそう勧めていたようです。「少しも働かず、余計なことをしている」とありますように、働かずに余計な口出しばかりしていたようです。

  現代でも、世界の終末は近いと語る人たちが繰り返し現れてきます。昨年末のマヤの人類滅亡予言で一杯喰らわされた人達もありましたし、典型的なのは、「エホバの証人ものみの塔」という団体などです。世の終わりを強調して不安を煽って信仰に誘い、中には学校をサボらせて伝道活動を熱心にさせます。テサロニケ教会を悩ませたのは、それと同じ異端でなくても、そういう考えに近い人たちだったといっていいでしょう。

  ですから、ここで言われているのは、私たちが通常考える「怠惰な生活」とはやや趣を異にします。更に、ここで問題になっている人たちは、病気や、働こうとしても仕事が見つからない人ではありません。働けない人や身体的・精神的病気で働けない人を、「怠惰な生活」を送っていると言っているのではありません。それは不運な人や病人であって、「怠惰な人」とは言えません。誤解されないように、この事は先ずはっきりさせておかなければなりません。

  また10節には、「働きたくない者は、食べてはならない」という有名な言葉が出てきました。「働かざる者、食うべからず。」共産主義者レーニンが、この箇所から拝借した言葉です。

  ただ本来この言葉はどんな背景の下で言われたかというと、当時、色んな親方の下に職人が弟子入りして働いていましたが、優秀な職人がずる休みをしたのです。それで親方は夕食の時にその職人に、「働きたくない者は、食べてはならない」と叱ったのです。づる休みを叱った。これが元々の起こりだと言われます。

  ですから、働きたくても働けない人や病気で働けない人を、パウロは怠け者と言っているのではありません。むしろそう言う人は治療や手当が必要な人です。

  マタイ20章でイエスは、「最後に来たぶどう園の労働者」の喩えを語っておられます。ぶどう園の主人が労働者の寄せ場に朝6時、9時、12時、午後3時、5時にやって来るわけです。夕方にやっと雇ってもらえた労働者は、働きたくても仕事が見つからなかった人です。イエスは彼を責めておられません。責めるよりも、長時間誰も雇ってくれなかった悲しみに労りの言葉をかけておられます。

  いずれにしろ、「働きたくない者は、食べてはならない」という言葉は、当時の状況の中で語られているのであって、これを普遍化したり、現代の日本に直接当て嵌めたりするのは危険です。

         (つづく)

                                          2013年3月3日



                                          板橋大山教会   上垣 勝


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