どんなことにも感謝
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どんなことにも感謝 (中)
Ⅰテサロニケ5章16-22節
(3)
最後に、「どんなことにも感謝しなさい」とあります。「どんなことにも」です。どんなことにも、人に感謝し、神に感謝しているでしょうか。
聖書全巻を通して、感謝という言葉は120回も出て来ます。聖書は感謝の書だと言って過言ではありません。キリスト教は感謝の信仰です。それほど多くの感謝が、神にまた人に語られています。
以前に触れましたが、福井で、公立幼稚園に勤めていた先生が、私たちの教会幼稚園に移って勤めるようになったことがありました。彼女の両親も兄も皆、公立の小・中学校の先生や校長でした。ある時、幼稚園内で行なった教師たちの研修会で、教会幼稚園に勤めた感想を聞きましたら、彼女は、「公立幼稚園では、感謝など殆ど話題になることはありません。友だちへの感謝、家族への感謝だけでなく、その背後にいらっしゃる神様に感謝するなどというのは、とうてい考えられないことです」と言っていました。公立であっても、ありがとうと礼を言うことは、人の基本的な躾や礼節だろうにと思いますが、そうだったというのです。私は改めて教会幼稚園の存在意義に気づきました。
「感謝する」は、ギリシャ語でユーカリステオーと言います。これは、「カリス」、好意や恵み、思いやりのある行ないに対して、「それは善い」「素晴らしい」と感謝して応答することです。漢字でも、有難く思って礼を言うことです。
私たちは神様に造られ世に生きています。その最も根本を喜び感謝することがあって、人として尊厳を持って存在しうるでしょう。そういう深い所から人間教育は始まらなければならないと思います。何かを「為す」、立派なことを「為す」ということからでなく、私たちが「ある」ということに本質的な意味があります。行為でなく、存在そのものが祝福されている。それが教育の原点であり、人間の原点であるからです。
最初に申しましたが、「ありがとう」は、「有り難い」ことを、まさに有り難い事柄として自覚的に捉えて感謝する言葉です。慣れっこになってしまって感謝を忘れてはなりません。それは自分を粗末にすることでしょう。
感謝することで相手と心が通じ合います。神様とも、人とも心が通じるでしょう。感謝する時に、「私はこれでいいのだ」という良い意味での満足感や自尊心が生まれます。「これこそ、キリスト・イエスにおいて、神があなた方に望んでおられることです」とある通りです。「ありがとう」を言うと、心がさっぱり明るくなるのは、そのためです。感謝は相手が投げたボールに、心を込めて投げ返すことです。感謝はコミュニケーションを生み出し、社会を形成する行為です。
私たちは神様に造られ、この世で生きています。その私たちが、互いに「組み合わされ、結び合わされ、愛の内に成長していく」ことが先週のエフェソ書4章にありましたが、感謝は、互いに「組み合わされ、結び合わされ、愛の内に成長していく」重要な接着剤の働きをなすものです。
感謝の反対は不平でしょう。しかしフィリピ書でパウロは、何事もつぶやかず、疑わないでしなさいと語り、「私は、あらゆる境遇に満足することを習い覚えた。貧しく暮らすすべも、豊かに暮らすすべも知っています。満腹していても、空腹であっても、物が有り余っていても、不足していても、いついかなる場合にも対処する秘訣を授かっています。私を強くする方のお陰で、私にはすべてのことが可能です」と書きました。
三浦綾子さんの小説「氷点」が当選した時、祝賀会で旭川の市長さんは、「三浦さんは旭川の風格を高めた」と語ったそうです。本当にそう思います。その後35年間、三浦さんは中央に移ることなく、最低気温マイナス40度になる旭川で作家活動を続けました。しかしその作品は一地方に埋もれず、埋もれないばかりか、主要な外国語はむろんのこと、非常に多くの外国語に翻訳されて世界中で読者を持ちました。私たちがフランスの片田舎を旅した時、その小さな書店のウインド・ケースに「氷点」のフランス訳が並んでいてびっくりしました。
多くの難病を抱えながら作家活動をしながら、「あらゆる境遇に満足することを習い覚えた。貧しく暮らすすべも、豊かに暮らすすべも、…いかなる場合にも対処する秘訣を授かっています」というようなあり方をされたと思います。人間ですから限界はあったでしょうが、それは、「どんなことにも感謝しなさい」を生き抜こうとする在り方でした。聖書があの方を最後まで導いたと思います。
神を喜び、神に祈り、神と人に感謝する。それは神と交わる生活です。この交わりの生活が大事なのです。「これこそ、キリスト・イエスにおいて、神があなた方に望んでおられること」なのです。神との交わりを持って生きる。人生をこれほど豊かに、充実させる生き方はないでしょう。
(完)
2012年9月16日
板橋大山教会 上垣 勝
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