古代人と悪霊


                    リヨンは星の王子さまの町。空港もサン・テクジュベリ。
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                                         あなたの名は天に記されている (上)
                                         ルカ10章17-20節


                              (1)
  今日の個所は、ある英語聖書では、「72人は喜んで帰って来て」でなく、「大喜びで帰って来て」となっています。また、「主よ、お名前を使うと、悪霊さえも」でなく、「何と、悪霊さえも私たちに屈服します」となっています。悪霊さえも屈服させた弟子たちの歓喜の姿、驚きの有様が活き活きと訳されています。

  先ずここで考えさせられるのは、72人の弟子たちのこの喜びの姿も、もしイエスに派遣された時に思い切って従うことがなかったら、決して起こらなかったことだということです。先週触れましたように、彼らは躊躇があったでしょうが、それを越えて服従し、町や村に派遣されて行った。その結果、イエスの御名が持つ不思議な力、特別な権威を経験することが出来たのです。この大きな喜びはそのような実際的な服従から起ったと言っていいでしょう。

  信仰の喜び。それは、不安を持ちながらも、イエスを信じて従う者だけが知る経験だということがここに表わされています。現実的な事柄において委ね、信頼するということです。

  先週のテゼの集まりに、遠く調布から来た婦人がありました。調布からだと帰りがかなり遅くなる筈です。この方はその前にある本を読んでいたが、この集まりに参加して、その本に書かれていたことをこの祈りの集いの中で実際に経験したと喜んで帰って行かれました。何も大きな集まりでなくていいのです。小じんまりした集まりで、そういう信仰の経験をする人が生まれればいいのだと思います。

                              (2)
  さて72人は半ば有頂天になって、「主よ、お名前を使うと、悪霊さえも私たちに屈服します」と報告したのです。悪霊に対してですが、彼らは鬼の首を取ったかのような勝ち誇った姿を見せています。

  ここでも悪霊は単数形でなく複数形で登場します。悪霊というのは、悪しき、邪悪な霊のことです。人の心も魂も支配下に置こうとする、超人的とも言えるデモーニッシュな悪魔的な力です。複数で登場するのは、それが持つ複雑な、一筋縄では解決の手立てがない、人間の魂を魅了することによって支配下に置くだけでなく、脅すことや弱みにつけ込み首根っこを押さえることによって支配下に置く、邪悪この上ない諸力です。その力は様々な現われ方をし、様々な思い掛けない顔をもって人間に迫るのです。

  2千年前の古代人は、その力を肉体の病気の中に見たでしょうし、精神的な病の中にもそれが働いていると考えたようです。また、人間を非常に高ぶらせ、悪辣で凄惨この上ないことをさせ、あるいは反対に非常に絶望的にさせ、投げやりに虚無的にさせる邪悪な霊です。

  詳細は今では分かりませんが、弟子たちは、イエスの名がその悪霊に打ち勝ち、彼らを屈服させて、悪霊への囚われから人々を自由にし、明るく解放したことを、短い伝道のフィールドワークを通して経験したのでしょう。

                              (3)
  その報告を聞かれたイエスは、「わたしは、サタンが稲妻のように天から落ちるのを見ていた。蛇やサソリを踏みつけ、敵のあらゆる力に打ち勝つ権威を、わたしはあなたに授けた。だから、あなた方に害を加えるものは何一つない」とおっしゃったとあります。

  イエスは、先週学びました10章1節以下の72人の弟子の派遣に際して、「行きなさい。わたしはあなたがたを遣わす」と、神の子の権威と権能をもって派遣されましたが、それは同時に、世の邪悪な力に打ち勝つ権威でもありました。弟子たちが、遣わされた先々で経験したのは、この神の御子イエスの力であった訳です。

  イエスは、彼ら36組の報告を次々と受けながら、「サタンが稲妻のように天から落ちるのを見た」と言われたのです。稲妻のように天から落ちるとは見事な表現です。これは多分に比喩的な言葉ですが、彼らの報告を聞きながら、天にあり、人間の上に力を奮っている邪悪な力が、力を失って行く様を感じられたのでしょう。

  ただ、天において力を奮うサタンが落下するというイメージは、黙示録などにあるように、終末において最後的に起こるものとして聖書に書かれていますから、イエスの言葉は終末の先取りと言っていいでしょう。イエスの目には、終末に起こることを先取る形でその目に映ったのでしょう。

       (つづく)

                                        2012年5月27日


                                        板橋大山教会   上垣 勝



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