イエスを離れた多くの弟子たち


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                                        主があなたを遣わされる (中)
                                        ルカ10章1-12節

                              (3)
  さて、イエス様が行こうとしておられる町村に72人を先にお遣わしになったのは、伝道の地ならしのためでしょうか。ご自分がなす伝道を、より効果的に行うためだったのでしょうか。私は、そうではないと思います。というのは、イエスはいつも弟子たちの先頭に立って進んで行かれたからです。自ら難事を引き受けて、先頭になって進まれたのがイエス様です。

  72人の派遣は、福音伝道の困難さを経験させ、その困難を乗り越えて行く喜びを、実体験させるためであったのではないでしょうか。言葉を変えれば、弟子のフィールドワークです。実地訓練です。そこには喜んで受け入れられる場合も、冷淡に扱われる場合も、時に塩をまき悪口を浴びせられて追い返されることもあるでしょう。

  前にいた教会は明治24年に始まり、大正、昭和、平成と続いて120年経ちますが、戦前の記録には、宣教師たちが実際に塩をまいて追い返された記録が残っています。別の教会では、教会の柱に鉈(なた)の傷跡が幾つも残っています。教会の中まで町の若者が土足で上がって来て、教会を倒そうと鉈で柱を傷つけたのです。恐ろしい迫害の時代です。

  そういう時にも、心弱らず、福音の種を播き続ける。それは実に辛抱が要ります。辛抱と共に、勇気が要ります。しかも愛をもって当たらなければなければならない。祈りも必要です。これは忍耐の訓練ですし、希望を持ち続ける訓練ですし、愛と祈りの訓練、神がおられることを粘り強く信じ続ける訓練です。

  昔、ヨハネ福音書6章を読んだ時ショックを受けたことがあります。正直、息を飲みました。「弟子たちの多くが離れ去り、もはやイエスと共に歩まなくなった」と書かれているのです。イエスでさえ、「実に酷い話だ」と言って非難されたとあります。誤解も受けました。中には誤解を与えた方(ほう)も悪いと言って痛烈に批判する者もあったでしょう。色々な言い草が世にはあります。我が身かわいさにそうするのです。

  イエスに従う群れはいつも増え続け、右肩上がりの増加ぶりだったなんて、とんでもない誤解です。ありもしないことを吹聴して離れて行く場合もありましたし、「多くが離れ去り」とあるように、グループでイエスに対抗して離れるケースもあったのです。

  皆さんの日常生活でも、キリスト教への疑問が出される場合や、皆さん自身がキリスト教への疑問に直面する場合がおありではないでしょか。例えば、何かごく小さいことがきっかけで、信仰のABCから分からなくなることもあります。牧師だってそうなることがあります。誰でもそうなる可能性があります。神も分からなくなります。それをどう乗り越えていくのか。それは本質的な事柄です。

  少し先の18章を見ると、イエスは、「気を落とさずに絶えず祈らなければならない」ことを、譬えで語られたと書かれています。イエスの弟子である必須条件は、粘り強い祈りの生活、執拗な祈りの生活だとおっしゃっています。

  信仰のABCから分からなくなる時も、祈り続けるのです。それが、「気を落とさずに絶えず祈りなさい」とイエスが命じられたことです。何日も、何週間も、何カ月も、いや何年間もかも知れません。信仰の闇の中で手探りしながら、聖書に導かれて、気を落とさず祈り続けていきます。すると、ある時フッと分かって来ます。峠の向こうに出ます。信仰が分かると共に、何故そうだったかも分かったりします。この忍耐が信仰の深まりになります。この経験が大事です。自分の経験ですから消えません。諦めず神を待ち望んでいると、パッと光が差して来るのです。

  このように、イエス様が72人を先にお遣わしになったのは、彼らが自ら困難に出会って訓練させられる為だったでしょう。イエスの配慮や愛はこういう所にも見え隠れしています。

            (つづく)

                                        2012年5月20日


                                        板橋大山教会   上垣 勝



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