人類の最大の思い煩い


                          レマン湖と雲中のアルプス
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                                           砦(とりで)の塔 (中)
                                           詩編94篇1-23節
          


                              (3)
  12節以下は前半と違い、神を信じ、神に謙遜に従う人たちのことです。この著者自身であり、皆さんはこの著者に近い所におられるでしょう。「いかに幸いなことでしょう。あなたに諭され、あなたの律法を教えていただく人は」と語られています。「あなた」とは神です。また、神のみ言葉、律法に教えられる人は、「苦難の襲う時にも静かに待ちます」と語っています。

  なぜなら、「主はご自分の民を決しておろそかになさらず、ご自分の嗣業、信仰を継ぐ人を見捨てることをなさいません。正しい裁きは再び確立し、心のまっすぐな人は皆、それに従うでしょう」というのです。一度は損なわれても、必ず「再び」正しい裁きは確立していく。「再び」という言葉は大事です。

  ここに正しい「裁き」とあります。「裁き」という言葉は聖書では重要な言葉です。これは誰かを批判し裁く、私たちがよく使う意味で使われているのではありません。感情的な裁きではありません。

  聖書では、本来、最後的に暴力なしに解決するのが裁きです。古代イスラエルでは、裁きの目的は、暴力行為によって壊され、ダメージを受けた社会平和が再び回復されるためです。裁きは平和が生み出され、平和が確立されるためです。また不正が正され、すべての人に公平や公正が貫かれることです。善と義が、愛が貫徹されることです。

  例えばイザヤ書11章は、「エッサイの株から一つの芽が萌え出で…」と、一つの芽というのはイエス・キリストを指して、ここはイエスの預言とされる個所ですが、それに続き、彼は、「弱い人のために正当な裁きを行ない、この地の貧しい人を公平に弁護する」と語っています。また詩編72篇は、「王が正しくあなたの民の訴えを取り上げ、あなたの貧しい人々を裁きますように」と語っています。

  いずれも、貧しい人や弱い人、無力な、虐げられている人たちへの正当な裁き、公平な弁護、これが聖書の語る裁きです。ですから、裁きはこれらの人を救うこと、助けることと同じ意味になることもありました。

  そしてこの裁きは何よりも主がして下さるから、それを堅く信頼するのです。主こそ最後決定的に決着をつけて下さるから、主に委ねるのです。人生、最後の決着を誰がつけてくれるのか。その決着は信頼できるのか。人類の最大の思い煩いはそこにあります。

  ですから17節で、「主が私の助けとなって下さらなければ、私の魂は沈黙の中に伏していたでしょう」と語ります。「沈黙」とあるのは殺されて黙らされること、死の沈黙です。この信仰者は、主の助けがなければ、彼らの手に掛って命を落としていたと考えているのです。そこまでの命の危険に曝されていたのです。

  また、「『足がよろめく』と私が言った時、あなたの慈しみが支えてくれました」と語り、「あなたの慰めが、私の魂の楽しみとなりました」と語っています。

  先程、私は、「彼らの手に掛って」と申しました。彼らはむろんここでは人間です。だが、私たちがその手に掛るのは、人間だけでなく自らの罪の手に掛ったり、誘惑の手に掛ったり、運命的なものの手に掛ったりします。肉体的な、また精神的な苦難、また何故こんな障碍を持って生まれたのかという、生まれつきのハンデも含みますし中途障碍も含むでしょう。そういう時は、親は大層悩み、本人もほとほと悩み苦しむでしょう。自分を責める場合もあります。そのような時、神の助けがなければ、絶望の手に掛って命を落とすかも知れません。悲嘆にくれて命の危険に見舞われるかもしれません。

  だがこの信仰者は、「主が助けとなって下さって」支えられたのです。そのため、主の慰めが魂の楽しみとなったのです。

            (つづく)

                                      2012年3月18日


                                      板橋大山教会   上垣 勝



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