腹いせの気持ちは分かります


               リヨンを流れるローヌ河畔から市立病院とフルヴィエールの丘をのぞむ
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                                           砦(とりで)の塔
                                           詩編94篇1-23節
          

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  マタイ10章16節は後からお話しすることにして、今日は先ず詩編94篇を取り上げます。先程交読しましたように、1節には、「報復の神として、報復の神として顕現し、全地の裁き手として立ち上が」って下さいとありました。英訳聖書では、「復讐の神として御身を現わしてください」となっています。

  復讐や報復です。もの凄い詩編を交読したと思います。これは、単に順番に先週に続く交読詩編を選んだのですが、飛ばすこともできましたが、飛ばさず、キリストが来られる前の旧約聖書が本来持つ考え、ユダヤ教と言っていいでしょうか、その祈りと考えを取り上げてみました。私は交読ではこういう所を外して来ました。ですから私は94編の下に×印を付けています。しかし今日は思い切って取り上げました。

  ここにある報復の相手は、「誇る者」、「逆らう者」、逆らうとは神に逆らうと言うことでしょう。「驕った言葉を吐き続ける者」、「悪を行ない」、「傲慢に語る者」、また「やもめ、寄留者、みなし子を虐殺する者」など、彼らを裁き、報復あるいは復讐して下さいと語っています。そして23節では、「彼らを滅ぼし尽して下さい」とさえ、神に要求します。

  これは、決してキリストが命じられたことではありません。ですからある注解書は、「神はそのようなものでない」と書いています。当然です。

  もしこのような神への要求がまかり通るなら、やがては詩編138篇にあるように、「いかに幸いなことか、お前が私たちにした仕打ちを、お前に仕返す者。お前の幼児を捕えて岩に叩きつける者は」という所まで行きかねません。岩に相手の幼児を叩きつける者は何と幸いなことか。イエス・キリストからそういう福音は出て来ません。

  腹いせとしては気持ちは分かります。しかしそれは復讐の応酬という最悪の事態を引き起こし、ドロ沼に嵌(はま)りかねません。そういう泥沼にはまった国際関係から家族関係まで、あげれば切りがありません。

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  では94編が真剣に語るものを、キリスト教では無視すべきでしょか。知らぬ顔をして通り過ぎるべきでしょうか。彼が報復して下さいと真剣に語る相手は、驕った傲慢な人間であるだけでなく、6節を見ると、「やもめや寄留者、またみなしごを殺し、虐殺する者たち」です。彼等は弱い者を虐殺した上に、「主は見ていない。」神は気づくことはないと神を嘲る者たちです。それを見過ごしにしていいのでしょうか。

  5節には、「彼らはあなたの民を砕き」とあります。彼らはイスラエルに敵対する外国人でしょうか。だが8節は、「民の愚かな者よ、気づくがよい」と語っています。彼らは外国人でなく、同国の民です。同国民で、国内の弱い者を苦しめ虐げる驕った者たちです。

  「愚かな者よ」とあるのは、彼らが愚か者だからではありません。むしろ学のある者です。知識も人一倍あるでしょう。社会的地位も一般人より遥かに高いかも知れません。だからこそ、自ら賢者であると驕り高ぶっているのです。彼らは勝ち誇る勝者であり、時代の勝ち組の者たちです。

  アメリカの大手金融業界のゴールドマン・サックスという会社があります。世界の巨万の富を動かしています。ところが、内部の重役が警鐘を鳴らしています。今の経営陣は、「顧客よりも金儲けに走っている。」有害で破壊的だ。モラルが低下してしまったと訴えています。ここにも勝ち組の驕る姿があります。

  大金融業界まで行かなくても、世の中には鼻持ちならぬ程に傲慢に振舞う人々がいます。そのような者が、貧しい人や弱い者を虫けらのように扱い、役に立たなくなれば情け容赦なく捨てて殺す。一体彼らをどう考えればいいのでしょうか。これは多分、私たちの日常生活でも起こっている場面です。昨日とか、先週とかでも起こっていた事柄ではないでしょうか。

  人間は一度でも理由なく虐げられたり、不正に裁かれたり、踏みにじられる経験をすれば、正義への激しい渇きを持たざるを得ません。法律はそれを破る者を裁きますが、驕った言葉、勝ち誇った態度を裁いてくれません。それは一体どうすればいいのでしょうか。


            (つづく)

                                      2012年3月18日



                                      板橋大山教会   上垣 勝



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