医者の究極のあり方


                          リオンのマドモアゼル
                               ・




                                          病を担う人 ― 神の義 ― (中)
                                          マタイ8章14-17節


                              (3)
  そして今日の聖書は、「それは、預言者イザヤを通して言われていたことが実現するためであった。『彼は私たちの患(わずら)いを負い、私たちの病を担った』」と語ります。

  イエスは私たち人間の病と患い、病患を負い担って下さった。500年前にイザヤによって語られた預言がここに実現したと言うことです。旧約聖書で預言されていた方がここに登場されたのです。

  医者は複雑な病の前で、冷静に、その一つ一つの病を丁寧に解きほぐして治療していきます。その人と長く付き合い、その人といわば人生を共にする訳です。研究材料にする訳ではありません。むろんそうされることもあるでしょうが。

  ここには治療する者の究極の在り方が示唆されているかも知れません。それは「患いを負う」というあり方、あるいは「病を担う」というあり方です。「負う」とか「担う」とかは、自分の身に負うこと、他人事としてではなく自分のこととして身に担うことです。ここからすると、真の医者の使命は、患者の病を自分も共に担い、共に生きることです。どんな者も差別せず、苦しむ者を治療するだけでなく愛すること、その人生の悲しみ、辛さを共にして、少しでも助けようとすることです。

  ここから多くのことを教えられます。また素晴らしいです。しかしそれと共に、他者の患いを負う、人の病を担うと言うことは、究極の形では人間は出来ません。できるでしょうか。不可能です。

  関西の有名なキリスト教病院の外科医であったある方が、病院を辞めて、日本キリスト教海外医療協力会JOCSのワーカーとして、バングラデシュに行きました。貧しい人たちの中に入って、彼等と共に生きたいと考えて行かれたのです。そこにイエス様がおられる、そこでイエス様に出会えると考えられたのです。だが、実際にバングラに行っても、草の根の人たちと共に生きることはとても難しい。それがよく分かったと言われるのです。

  バングラの草の根に生きる人たちは、本当に何も持っていない。3畳ほどの家に住んで、藁やビニールで雨露をしのいでいる。服は2枚か3枚しかない。鍋も1つか2つです。家族を連れてバングラに行ったが、この人たちと共に生きることを目指しながら、やっぱり自分は豊かな外国から来た医者に過ぎない。一緒に、共には生きれない。

  こう書いておられました。服の1枚目は脱げる、2枚目も脱ごうとすれば脱げる、だが3枚、4枚となると本当に難しい。彼等のように無一物になれない。出来っこない。そのことをイヤと言うほど知った。正直な謙遜なお医者さんです。このように人間は出来ることと出来ないことがある。

  だがイエスは私たちの人生を共にし、私たちの罪も、弱さもご自分に担い負って下さるのです。一人ひとりのその魂、人格と出会い、イザヤ書46章を見ると、私たちの「老い」をも担って最後まで持ち運んで下さる。私たち一人では担えないような重荷も担って下さる方です。

  イエスは薬で癒されたのではありません。人の患いと病をご自分の身に負い、ご自分に引き受けて担がれた。そのようにして、その人の病患から来る思い煩い、恐れ、不安、また罪障感、罪意識、その他すべての重荷を担って、人生の恐れから解放された。

  キリストがご自分の身に、病や患いを負い担って下さるとは、別の見方で言えば、キリストが私たちの存在を「義として」下さることです。キリストが私たちに平和を授けて下さることです。病気や患いから来る汚れを取り去り、神の清さに与らせて下さることです。更には神の祝福を授けて下さることです。人間である医者はここまで達せなくても、ここに究極のあり方があります。

            (つづく)


                                      2012年3月4日



                                      板橋大山教会   上垣 勝



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