テゼ共同体に一貫してきたもの


                       この夏、世界各地からテゼにやって来た若者たち
                                   ・


                                             平和の宣言 (中)
                                             ルカ2章8-14節


                              (2)
  テゼのブラザー・ロジェの本が死後に次々出されて、幾つかの良い本が出回り、それを取り寄せてこの数年励まされています。その一冊は日々の座右の書になっています。「愛を選ぶ」という題です。

  これを読んで、なぜ世界の若者たちが、フランスの片田舎にあるこの共同体に心ひかれて、毎年何十万という人たちがヨーロッパだけでなく、海を越えて、ここ何十年に亘って訪ねるようになっているか分かる気がしました。

  一言で言えば、「いと小さき者と共に生きる姿」に他なりません。気のきいた言葉や思想でなく、それを実際に生きているその存在のありようが惹きつけていることです。人を惹きつける言葉は、テレビにも新聞にもその他にも氾濫しています。現代は、人を惹きつける言葉を作る商売、広告産業が幅を利かせています。だが、それを実際に生き、言葉がその存在のありようになっているというのは殆どありません。だがここテゼにはあるのです。

  戦時中には、ドイツの恐ろしい秘密警察ゲシュタポの手を逃れて、命からがら亡命するユダヤ人や政治犯たちを匿い、逃がしました。私服警察が目を光らせ、ひっきりなしにやって来て職務尋問する中で、ブラザー・ロジェはそれを行なっていたのです。何という勇気、大胆さでしょう。

  戦争が終わると、直ちに、「今、最も助けを必要としている人たちは誰か」と、数人になったブラザーたちと相談して、彼ら自身が食うや食わずの中で、戦災の孤児たちを引き取りました。そこには、ソ連からの難民としてフランスに逃げ、強制退去を言い渡された親が死に、後に残されて路頭に迷っていたその孤児たちも交じっていました。それと同時に、世界の人が驚いたのは、戦後まもなくドイツ兵の捕虜たちを礼拝に招いてもてなし始めたのです。数週間か数か月前まで敵の兵隊であった者たちを招き始めたのです。

  時代が進むと、また、「今、最も助けを必要としている人々は誰か」と更に加わったブラザーたちと相談し、今度は何人かが、当時は悲惨な状態であった炭坑に行って鉱夫たちの間に住み始めました。

  また、カルカッタマザー・テレサは時々テゼに来ました。彼女の気の強さは相当なものです。あれほどの仕事をするにはそういう気の強さはいります。でもそれと同時にああいうことをする限りは、心の平和がいります。それでテゼに来てはそれを得ていたのです。ある時、彼女はブラザー・ロジェの腕の中に生後5か月のインドの女の子を置いたのです。インドでは助からない。でもフランスに行って手当てすれば助かる可能性がある赤ちゃんです。ロジェさんは躊躇しました。だが直ちに決断して養女にし、フランスのこの片田舎で育てました。その他、この小さな貧しい村に、スペインとポルトガルからの貧しい移民を受け入れましたし、ベトナム戦争時代には、何とベトナム難民の子沢山の貧しい一家を受け入れもしました。

  これ以上の紹介はやめますが、ブラザー・ロジェとその共同体を一貫して貫いて来たのは、「今、最も助けを必要としているのは誰か」という素朴な思いであり、実際にその友になることでした。それが創立以来、今日までずっと続いている。これが若者の心を揺すぶっているのです。

  東西ベルリンが壁で隔てられたのは1961年。今年50周年でした。それ以降、往き来ができなくなったのに、どれほどテゼのブラザーたちが危険を冒して東ドイツに入ったか、数え切れません。東ドイツが崩壊した時、銃声一発聞こえなかったと言います。崩壊する迄には、テゼの導きで祈りの細胞が東ドイツに沢山生まれていたのです。日本の新聞も気づかない程、静かに、深く潜行し、すそ野を広げていたのです。

  これらはすべて、ただ「神に栄光あれ」ということです。人間に栄光あれではありません。

  羊飼いたちを通して、「民全体に与えられる大きな喜び。」低い所に御目を注がれる神への絶対的な信頼。それが御使いたちのこの賛美にあります。


          (つづく)

                                        2011年12月25日



                                        板橋大山教会   上垣 勝


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