弱さに宿る力


                            リヨン美術館で
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                                          キリストの力が宿る時 (下)
                                          Ⅱコリント12章7-10節



                              (2)
  パウロの経験は、私たちに光を投げかけています。というのは、私たちはしばしば自分の弱さをどう扱えばいいのか分からなくなるからです。弱さの中で、自分がどんなに脆く壊れやすい者かに気づいて愕然とさせられる場合もあります。体が弱くなったこと、能力がなくなったこと、人間としてお粗末になったこと、いや、もともとそうであったかも知れないと私自身それを思います。そのため、こんな自分が知られれば誰も愛してくれないのでないか、相手にしてくれないだろうと思って、自分を隠したり、恐れたり、思い煩ったりします。

  そして、そんなことで恐れている、情けない自分の姿を知られれば軽蔑されるのでないかと思って、更にまた恐れます。今の自分に正直になれない。

  現代社会は、殆どの人がうまく自分を着飾っていて弱さを見せませんから、自分の弱さをどこへ持って行けばいいのか、弱さの持って行きようがない社会です。誰かに、みじめな自分の姿が知られれば、相手にされないだろう。自分のお粗末な実体を分かられれば、捨てられる違いないという恐れで生きています。弱さをどう扱えばいいか、弱さが出せず、弱さの扱いが分からない。そういう時代です。

  しかし先に言ったように、強さを誇る必要はない。イエスは私たちの弱さをご存知だし、弱い私たちを喜んで迎えて下さる。イエスは、私たちの弱さを通して私たちの中に入って来られるとパウロは言うのです。だから、「大いに喜んで弱さを誇ろう」と語るのです。

  もしイエスが私の弱さを知り、弱さの中へ来て下さるとすれば、私たちは貧しい人間であっても落ち込む必要はない。優れた才能がなくても、それが枯渇しても恐れる必要はない。キリストの恵みは、あなたにも届いている。誰が否定しても、神はあなたの存在を愛し、あなたを肯定し、あなたの存在を喜んでおられる。だから胸を張って生きよ。人と比較し、しょげ、ケンカ腰になることもない。諦めず、神を仰いで前進して行け。精進して行きましょう。失敗しても、神が愛されているから安心して生き、人としての誇りを失わず、自分をしっかり愛してあげ、いたわってあげ、自分を愛するように隣人を愛して、人間らしい姿を取り戻して生きよということです。

  神の愛は、キリストにおいて現れています。

  愛について考えると、愛は傷つき易いものです。誰しも愛することを決断した者は、相手が傷つかないよう配慮します。愛は、こちらが傷つき易くなります。愛さない限り、どんなにも強く出ることができ、辛辣であることができ、手痛い傷を負わすこともできます。しかし愛する者は、自ら傷つき易くなる。時には、愛する者のために死に至ることがあり、命を落とすことがあります。

  イエスにおいて、神は私たち人間に対して、最も傷つきやすい存在になられました。愛する故に、十字架に付けられ、私の罪、弱さ、愚かさの身代わりとなり、愚かにも呪われました。磔(はりつけ)にされ、私たちの罪を贖うために死なれました。イエスにおいて、愛ゆえに弱くなった究極の弱さが示されています。しかし神の弱さ以上に強いものはありません。それは私たちを愛し、罪から贖い出すための「強い弱さ」です。神は、十字架の愚かさ、十字架に付くほどの弱さを通して私たちを救おうとされたのです。

  ですから今日の聖書は、私たちを生き方の根本的な問いに向かわせます。力と能力を誇る世界にあって、弱さは失敗のしるしか。敗北のしるしか。持てる者は勝者であり、持たぬ者は敗者なのかという問いです。

  病弱、貧しさ、能力のなさ、障碍、行き詰り、それはもう敗残者であり、駄目なことなのか。

  だが、その弱さにも、キリストの恵みが完全に現れているのではないでしょうか。キリストを仰ぐなら、弱い時に、キリストの力によって強くされるのではないでしょうか。

        (完)


                                          2011年11月6日



                                        板橋大山教会   上垣 勝


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