私にはオーラなどないが


  オランジュの古代劇場。客席は1万人ほどが入れます。日差しが強くスタジアムに長時間おれません。
      ところが客席の下は分厚い石造りの通路になっていて心地よい風が吹き抜けていました。
            古代ローマ人は時々ここで涼みながら芝居を見たようです。
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                                         家の教会の人たちに (中)
                                         コロサイ4章12-18節


                              (3)
  今日の日本人なら、そんなに広く伝道ができたのは、彼はオーラを放っていたのでないかなどと言うかも知れませんね。そういう面もあったかも知れませんが、伝道を可能にする源はそういう所にはありません。むしろ自分には何も力がない、欠けが多い、弱く、オーラも何も出ていない事を悟る所にあります。オーラなど何もないが、キリストが一切を授けて下さる。自分は弱いがキリストはすべてを備えて下さる。主の山に備えあり。そのことを証しすることです。

  「神の御心をすべて確信しているように」とは、そういう神の働きへの確信です。信頼です。コロサイ書に彼のそういった信仰の誠実が見られます。1章7節で、パウロが、「彼はあなた方のために、キリストに忠実に仕える者である」と紹介している所はむろんそうでしょう。今日の所で、エパフラスはコロサイの信徒たちのために、「熱心に祈っています」と書いていることからも彼の誠実な姿が現れています。

  そこにあるのはエパフラスの愛です。郷里の人たちを一人でも多く愛そうとする彼の愛です。キリストが自分を愛して下さったように、深く愛そうという思いです。キリストがわが郷里の人たちを愛して下さっているという確信でもあります。人に言えないような、どんな問題を抱えていようが、キリストは愛して下さるのだという確信です。この愛の確信をもって彼は郷里伝道をした。

  ですから1章7節で、パウロが、エパフラスは、「“霊に”基づくあなた方の愛を知らせてくれた人です」と書いたのでしょう。祈りの人エパフラスによって深く愛されたコロサイ人が、霊に基づく、信仰に基づく愛の人となって人々を愛していたというのは、十分納得できます。

  話は変わりますが、私たちの知人が、毎日午後に一人の婦人Aさんをリハビリ病院に見舞って、ベッドのそばに座って雑談を楽しんで帰って来るのを日課にしていると書いて来られました。Aさんを訪ねる人は他にも多く、よく人が訪ねて来るようです。

  Aさんの病気は難しい脳腫瘍です。それで危険な大手術をしましたが、手術は成功したものの意識が回復せず、4週間も昏睡が続きました。それで家族はすっかり絶望し、諦めつつも、家族も知人たちもAさんのために熱心に祈りました。

  そうするうちに駄目と思っていたのに奇跡的に意識が戻り、近くのリハビリ病院に転院して、ごくゆっくりの回復ですが全快を待つまでになられたのです。みんな、祈りが聞かれたと跳び上がらんばかり喜んでいるそうです。

  「トリエステの坂道」という須賀敦子さんのエッセイがあり、暫く前に評判になりました。実は、そのイタリアのトリエステに住む知人が、先週ご自分の近辺で起こっているこんな近況を知らせくれたのです。

  なぜAさん、マリーナさんと言いますが、どうして見舞う人が多いのかです。それは、この方は本当に素晴らしい人であるらしく、愛情が深くて、長いこれまでの人生において多くの人たちを助けて来たからですとありました。そう書いて来られた私たちの知人のボゼナさんも、6年前にイギリスからトリエステに移って来てこの婦人と出会い、一番大事な友になったのだそうです。

  「人にしてもらいたい事を、人にもせよ。」イエスのこの言葉は黄金律と言いますが、これをギブ・アンド・テイクとして読む人が多いと思います。だがマリーナさんは、報いを望まず多くの人に与え、愛して来られたのです。その純粋な報いを望まぬ愛が、最晩年になって皆から頂くことになられたのでしょう。

  ちょうど今、下町を歩いていると、どこからか一瞬香りが漂ってきます。思わず、犬みたいに鼻を突き出して臭いを嗅いでいます。金木犀(きんもくせい)でしょう。そのような良い香りを、報いを望まない香りをサッと放って来られた。こんな信仰の婦人のことを、ボゼナさんは書いて来られました。

  エパフラスが注いだ愛が、今度はコロサイ人の信仰に基づく人々への愛となって出て来たというのは、この婦人とよく似ていると思います。


          (つづく)


                                        2011年10月2日


                                         板橋大山教会   上垣 勝


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