聖書は思想書というより実践の書


                        大聖堂から見下ろすベルンの甍(6)



                                              岩を土台とする教会 (上)
                                              マタイ7章24-29節


                              (1)
  イエスは、山上の説教の最後に、この岩と土台の譬えを語られました。

  「そこで、私のこれらの言葉を聞いて行なう者は皆、岩の上に自分の家を建てた賢い人に似ている。雨が降り、川が溢れ、風が吹いてその家を襲っても、倒れなかった。岩を土台としていたからである」と語り、それに続いて、「聞くだけで行なわない者は皆、砂の上に家を建てた愚かな人に似ている。雨が降り…、その倒れ方がひどかった」と語られました。

  「私のこれらの言葉」とは、5章から7章までで語られた山上の説教のことです。世界広しといえど、山上の説教で語られた言葉はイエス独自の、イエス固有のものです。山上の説教と言えばイエス、イエスと言えば山上の説教です。

  その基盤の確かさ強固さは他の追随を許さぬものがあります。28節で、「群衆はその教えに非常に驚いた」とある通りです。

  それは、口先で語られたものでなく、イエスご自身が岩を土台として生きておられたからです。その権威は神の国に根ざし、神の国に由来するもので、権威者ぶるものとは根本的に異なったものでした。

  山上の説教は小福音書と呼んでも、イエスの金言集、教えの宝箱と言ってもいいと思います。また、これは世界の中を行く教会が掲げる旗印とも言えるでしょう。

  それで、山上の説教の全体を読めばいいのですが、略して、大事なところを思い出すために、簡単に拾い出して見ますと、先ず心の貧しい人々への祝福、幸いが語られます。また、柔和な者や心の清い者、義に飢え渇く者たちに対し、またみ言葉を求めてイエスの周りに集まった人たちに対し、「あなたがたは地の塩である。世の光である」と語られました。山上の説教の聞き手は近くに集まった弟子たちだけではありません。4章の終わりにあるような、病気で苦しみ、悩みを抱えてイエスのもとにやって来て、病を癒され、癒された家族を持ち、イエスの福音を聞いて励まされた大勢の群衆でした。イエスは彼らに、「あなたがたは地の塩である。世の光である」と語って、人間としての価値を自覚させられたと言えるでしょう。

  また、人々と直ちに、時を移さぬ和解、仲直りをすることの勧めを語られました。これは夫婦の自分の側からの仲直りも含みます。また、姦淫に対する、離婚に対する、偽りの誓いに対する、復讐に対する戒めと、愛敵の勧め。「敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい。あなた方の天の父の子となるためである」と語られました。

  また、施しの仕方、祈りの仕方、主の祈り、また断食のあり方、富の問題、思い煩いなどについて、先ず何を第一にすべきかを戒められ、「何よりも先ず、神の国と神の義とを求めなさい」と言われました。

  それから、人を裁くな、神に対して求めよ、探せ、門を叩けと語り、狭い門から入りなさいと勧め、広い門から入るなと戒め、偽善に対して警告されました。

  一言で言うなら、神を第一として、神と出会い、祈り、神のみ心を行なう者となること。更には、祈りつつ正義を行なう者となることと纏められるでしょう。

  このような説教がなされた後、イエスは今日の所でもう一度繰返して、今語った事柄は、ただ聞くためでなく、行なわれるために語られたものである。片方の耳から、他方の耳に通過していくために語ったのでなく、これらの言葉を聞いて行なう者が、岩の上に家を築く者のようになるためであると念を押されたのです。

  こうですから、聖書は本来、思想書というより実践書です。心の問題より行動の問題を扱っています。聖書の学術研究は今日欠かせません。だが、研究だけでそれを生きなければ、本来のイエスの意図から外れていきます。

  家が建てられると、土台の岩はあるのかないのか外から見えません。隠れています。ただ困難が起った時には、明らかに岩を土台としていたか、砂を土台としていたか実証されます。また、み言葉を行なっているかどうかも、ただ神と本人のみが知っていることで、他の人は、たとえ友だちや夫婦であってもそこまではあずかり知りません。一人ひとりの、神との問題、神への誠実の問題です。
  
       (つづく)

                                    2010年4月18日

                       板橋大山教会   上垣 勝

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