人の心が変わらなければ


             アイガー・グレッチャー駅から後ろを振り返ると氷河がそこまで迫っていました。  
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                                              鷲のように翼を張って (中)
                                              イザヤ40章27-31節
  
  
                                 (3)
  ポーランドポズナニという工業都市で、5日間開かれていたテゼ共同体主催のヨーロッパ大会が、きのう終わりました。この町は、ポーランドキリスト教が最初に入った地だそうです。零下10度の町に、3万人の青年がヨーロッパを中心に世界から集まり、今年は小さい町でしたが、例年のように遠方からの人は殆ど4泊5日のホームステイをしました。東京でしたら、皆さん、外国人を一人とか数人とか、お泊め下さるでしょうか。英語でなく、ロシア語とか、インドネシア語の人であったりします。これだけ多数が家庭を開放して青年たちを迎えてくれるというのは、私たちの想像を越えています。

  テゼの活動は、国連も注目して毎年事務総長がメッセージをよこします。EUヨーロッパ共同体の指導者たちも書簡を送って来ます。その他、その国の大統領や首相、市長さんなどが大会に参加することもあります。

  何故でしょう。今日は詳しくテゼの話を致しますが、それは、テゼが戦後間もなくから、平和と正義そして人々の和解と連帯、信頼を創り出すことを目指してきたからです。それが、今の世界の最も重要な問題になっているからです。僅か1%の人たちが世界の富の何10%を独占している。その不正義を解決するとき平和が生まれます。それは豊かな国と貧しい国が連帯することを意味します。また敵対する国が和解しなければ平和は来ません。世界に信頼を回復することが、現代の最も緊急な課題です。

  テゼはキリスト教の宣伝団体ではありません。沢山の若者を集めて、キリスト教の気勢を上げているのではありません。

  そうではなくて、社会に平和と正義、和解と連帯が生まれるにはどうすればいいのか、人々の間に信頼が生まれるのはどうすればいいかを真面目に追求して来ただけです。ヨーロッパ共同体が目指しているのも平和と連帯です。豊かな国が、貧しい国とも連帯することですから、テゼが目指してきたものと、共通するものを持っています。

  しかも何万という、これほど多くの若者が毎年参加して今年で32回。第1回に20代で参加した人は、現在50代になって社会で活躍しています。このような主題を考え、祈る集会は他にないのです。集会では、イスラムの人とも対話することがあります。ヨーロッパ共同体を維持し、もっと連帯を深めるには、将来にわたって若い人たちが信頼を創り出すことを真剣に考えて、その担い手にならなければなりません。テゼは、これらのテーマを無心に求めて来て、別にテゼが工作して来たわけでありませんが、世界の公けの機関がその働きの重要性を認めて、応援するようになっているのです。

  それもその筈、例えば北のロシアやノルウエーなどから、イタリア、スペインなど南の国で開かれる集会にやって来て数万人の青年が交流し、イギリスやドイツの青年たちが、東欧諸国の集会に沢山参加して交流します。しかもカトリックプロテスタント東方教会の教派を越えて交わりますから、しかも32回もしてきたわけで、これほどヨーロッパ共同体が期待を寄せる会はないのです。

  だが、テゼが目指すのはヨーロッパだけではありません。世界の人が地球的規模で、これらを創り出すことを目指しています。そのために国連が進んで支援するのです。

  さて、この後が今日一番お話したいことですが、今度の大会で、共同体の院長であるブラザー・アロイスさんが語ったことの一つは、多くの人たちは今、世界に平和がもたらされ、その平和が維持されることを願っていますが、そのためには、これまでの古い考えや社会構造にしがみついていては創り出せないということでした。

  「社会を改革するには、人間の心が変革される必要があります。人の心が変えられなければ、社会の変革もありえません」と強調しました。

  今、日本で人々がうすうす気づいているのは、民主党が政権を取ったけれど、鳩山さんも小沢さんも、どこか大変汚れているという事。その心は前の政権と余り変わらないようだということです。いや、それだけではありません。政権は変わったが、日本人の心が変わったかというと、変わっていない。変わろうともしていない。ブラザー・アロイスさんはそういう問題を突いています。そこに本質的な問題が横たわっています。

  こうも語りました。「私たちは、他人を犠牲にして富を蓄積しようとする限り、公正な制度を創ることは出来ません。」

  これは大変挑戦的な発言です。大統領とか首相とかも来る集会で、こういう発言をするのです。ヨーロッパ共同体だけでなく、日本にも本当はこういう考えが必要ではないでしょうか。

  これは、これまで日本やアメリカが「新自由主義」をいうのを唱えて来たことへの、警告と言っていいでしょう。金融業界や大企業に巨額のお金をつぎ込めば、彼らによって一般の人々の暮らしも引っ張り上げられるだろうといった考えへのチャレンジです。弱肉強食の政策は人類の連帯を創り出せない。むしろ格差を広げ、憎悪を掻き立てる。今世界で起っている経済的な不況や戦争は、古い考え方が行き着いた結果ともいえます。「思いやり保守主義」というのがブッシュ時代に言われました。しかし、アメリカの経済学者が指摘していますが、それは億万長者には思いやりがありましたが、中流以下の人たちには思いやりがなかったことでした。
  
     (つづく)  

                                 2010年1月3日

                                      板橋大山教会   上垣 勝

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